ジオ・ステアリング と オフィスや家からのリアルタイム・オペレーション
最近の南国での石油生産井は、できるだけ油層の中を長く掘って、そこから効率よく油を生産するために、油層の中を油層と平行に掘っていく水平井が主流となっています。
水平井の掘削は南国では1990年代初頭から本格的に始まりました。
井戸は長い鉄管をつなぎ合わせながら、その先端についたビットと呼ばれる道具で地層を削り、掘り進んでいきます。掘削中は泥水と呼ばれる流体を鉄管の中を通して地表から地下に送り、ビットの先端から噴き出した泥水は、ビットが削った地層の掘くず (カッティングス) と一緒に鉄管の外側を通って地表に上がってきます。
地表でカッティングスと泥水は分離され、また泥水は地下に送られていきます。
そのビットの近くには、今どのような地層を掘っているかモニターするためのセンサーが取り付けられています。そのセンサーでは孔隙率や地層の電気的な比抵抗やガンマ線など様々な物理情報を記録しています。井戸が今どのくらいの傾斜でどの方向に掘り進んでいるかも測定しています。
これらのセンサーで記録された情報はリアルタイムで地表に送られてきます。循環している泥水にプレッシャー・パルスで信号を乗せて、地下から地表までセンサーで記録された情報を送ることができるのです。まったくすごい方法を考えるものです。
水平井を掘削しているときには、地質屋が地表でこの地下からの情報をモニターしながら、ちゃんと油層の中の狙ったところを掘っているか、油層の中でももう少し生産性のよさそうな所はないかなど、考えながら井戸の坑跡をコントロールしていきます。
まるで自動車を運転 (ステアリング) するように井戸の角度や向きをコントロールするので、ジオ・ステアリング (Geo-steering) と呼んでいます。
以前はこのジオ・ステアリングに大変苦労しました。それは、昔は井戸の傾斜や方向を測定するセンサーや地層の物理情報を測定するセンサーがビットよりかなり後方に取り付けられていたからです。
それはまるで、ものすごく細長い自動車の一番後ろで、自分の真下の道路を見ながら運転しているようなものです。前にカーブがあって自動車の先端がもうすぐ壁にぶつかりそうになっていても気が付かないのと同じで、よく道を踏み外す (油層から飛び出る) ことも起こりました。
いまはツールも進歩して、ビットのすぐ後ろにいろいろなセンサーが付けられます。まだまだ遠い前方を見渡しながら掘り進む状況までには至りませんが、少なくとも自動車の先頭の運転席に座って、ちょっとだけ前方を見ながら運転する感じにはなってきたと思います。
昔は地質屋が一人で井戸の掘削現場に派遣されて、水平井の掘削中、ジオ・ステアリングを行っていました。問題ない時はコントラクターにデータをモニターさせて寝てもいいよと言われていましたが、いつ井戸が油層から外れてしまうか、恐ろしくてなかなかモニターから目が離せませんでした。
30分ほどうとうとしてはモニターが気になり、掘削現場のコントラクターのユニットに行って、モニターをチェックしたりしていました。なので、長い時には丸3日間ぐらい、ベッドで寝ることなくオペレーションを行っていたこともあります。またカッティングスなども気になって頻繁に見に行っていました。心配性の悲しいところです。
私が現場の仕事から離れてだいぶたった、今から10~15年前ぐらいからでしょうか、地下から送られてくるデータも、掘削中の様々なパラメータもすべてリアルタイムで掘削現場からオフィスまでインターネット経由で送られてくるようになりました。
そのため、コスト削減、人員削減のためもあり、通常の掘削であれば地質屋を現場に送らずに、オフィスから一人で数本の井戸をまとめてモニターしながらジオ・ステアリングを行うようになりました。カッティングスをじかに見られないのは残念ですし、ちょっと不安ですが、それによるリスクとオペレーションの効率化とのトレードオフの結果なのでしょう。
このインターネットを使ったリアルタイム・オペレーションは、別にオフィスからだけではなく、家にいても、それこそ休暇中に日本にいても、リアルタイムで掘削現場の地下情報がモニターできます。本当にIT技術の進歩は目を見張るものがあります。
おかげで休暇中でも難しいオペレーションがあると、ちょっとモニターを一緒に見てくださいよと、ゆっくりくつろいでいた温泉宿にまで電話がかかってきて、コンピューターで南国の掘削現場のリアルタイムデータを見ながら、あーでもない、こーでもないと南国の地質屋とのディスカッションに巻き込まれることもあります。
これはちょっとやれやれですね。
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