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#夫婦
古今東西の「愛してる」:銀行強盗
銀行強盗の現場に遭遇するとは思ってもみなかった。
覆面を被った男たちに指示されるがまま、妻と私は他の客と人質になった。
銃を向けられた行員が袋にお金を詰めている最中、
「最後になるかもしれないから」
と妻が小さな声で語りかける。
「愛してる」
この出来事を笑って話せる今が愛おしい。
古今東西の「愛してる」:記念日には
結婚記念日に無理を言って夜景の見えるレストランへ。
こういう場所が苦手な夫も、料理には満足げだ。
トイレに行った夫を待ちながら、明日の晩ご飯はどうしようかと考える。
物音がしたので振り返ると、そこには薔薇の花束を持つ夫が。
「愛してる」
また不慣れなことをと思いながら、瞳が熱を帯びていく。
古今東西の「愛してる」:下水道
日付が変わり、新しい年の開幕だ。
世界中が浮かれ狂っているまさに今、私たちは静かに、愛を確かめ合っている。
「愛してる」
壁に反射する花火の音に混ざって、妻の汚れない囁きが聞こえた。
この薄暗い下水道に暮らす私たちでも愛の存在を体感しているのだ。
地上のほうは、さぞ愛に満ち満ちているんだろう。
古今東西の「愛してる」:苦手
言葉は、届ける相手がいて初めて価値が生まれると思う。
俺は昔から感情表現が苦手だった。
そんな俺のことを妻も理解してくれてるはずだ。
病院から突然報せが来たのは、金婚式の5日前。
駆けつけた先にいたのは、動かない妻だった。
「愛してる」
もう届くことのないこの言葉に、価値は無いのだろうか。