「三匹の子豚 1匹目の豚は藁で家をつくる」 ショートショート
むかしむかし、あるところに三匹の子豚がいました。
ある日、おかあさん豚に「おとなになったのだからそれぞれ家を建ててつくりなさい」といわれました。
兄弟はそれぞれ、家をつくることにしました。
長男の子豚は、藁で家をつくることにしました。
「そんな藁でだいじょうぶなのかい、兄さん」と末っ子の子豚がいいましたが、長男の子豚は「これで十分さ」と藁を集めました。
ぎゅぎゅっと藁で束を作り、はい、すぐ出来上がり。
「さぁて、出来た出来た。とりあえず、寝るか」
と藁の家に入って行きました。
「まったくもう、兄さんは・・・」
やれやれ、と呆れ顔で末っ子豚は去って行きました。
少しすると、森に住んでいる悪いオオカミがやってきました。
オオカミはおかあさん豚からいわれて、子豚たちが家をつくるのをみていました。
「くっくっく、こんな家でくつろぐとはなぁ」
そういいながら、オオカミは藁の家の中へ呼びかけました。
「やぁ豚くん豚くん。ここを開けておくれ、俺を家に入れてくれよ」
「なんでだよ。オオカミは家に入れるなって、おかあさんにいわれたんだ」
「なんでだい、ぼくは友達になりたいんだ」
「そんなことをいわれてもダメだよ」
「なんでだい、ぼくがオオカミだからかい?」
「そうだよ。君はぼくをたべるつもりだろう?」
「そんなことないよ。だから家に入れておくれ」
「だめだよ。帰ってくれ。家にはいれないよ」
「そんな。。。。。。。。じゃあしかたない」
そういうとオオカミは大きく息を吸い込んで、ふーーーー!! と息を吐きました。すると、その一息で藁はバラバラになりました。
「なにするんだ!」
「はっはっは、こんな藁の家なんて俺の一息で吹き飛んでしまうのさ。さぁ、おとなしくしな」
「友達になるんじゃなかったのかい?」
「はっはっは、そんなことは嘘さ。俺はオオカミだからな、ぺろりとお前をたべてしまうよ」
そういいながら、オオカミは藁の家だった場所に立つ、長男の子豚をぺろりと食べようとしました。
しました。
が、それは叶いませんでした。
「が、、、、、が、、がはぁぁつ!!!!!!!!!!!!」
「どうした? ペロリと食べるんじゃなかったのか?」
大きくあいたオオカミの口。しかし、その顎門は閉まらない。ガッシリとその顎門の両端を、長男の子豚の掌が押さえていた。
オオカミは大きく身震いし、豚の腕を振りほどこうとする。しかし、それも叶わない。ばたつく様はまさに無様。だが、それでもオオカミは子豚の手から逃れられない。
野生で鍛え上げられた狼の体に身震いする。それほどに力が込められているのがわかる。だが子豚は逆に微動だにしない。
「どうした? 息があがっているようだが、もしかしてつかれたのか?」
「!! ・・・・!!!!!!!」
しかし口を開かされたオオカミは返事もできない。
「やれやれ、返事もできないほど疲れているのか、じゃあ、ちょっと、俺の家でよこになれ・・・・・ーーーーよっ!!!!」
そのまま子豚は ギュン!!!!! と腕を捻り、オオカミの体を頭を軸に投げると同時にそのまま藁の家だった場所ーーつまりは地面に叩き落とした。
ごっーーーーー!!!!!!!!!
ごぎゅり!!!! 首が奇妙にねじれる音とともに、オオカミの巨躯は大地へ激突した。
「あ、が、な、、、な、子豚が、、、、、ただの子豚が、、、」
声を出せるのは、さすが野生の狼といったところだろう。しかし、子豚は意に介さない。
「子豚だよ。ただの」
「ば、ばかな、、、豚風情が・・・・こ、こんな」
「豚が狼より弱いとだれが決めた。俺がお前より弱いとだれが決めた? 藁ぶきの家を立てて喜ぶ阿呆に見えたか? 吹けば飛ぶ家で暮らす間抜けに見えたか?」
豚は、立ち上がることのできない狼に見る。
「それで十分な豚だと思えなかったか? こんな“凶暴な狼”が出てくる場所で、藁葺きの家で安全だと思えるほどの“豚”だと思えなかったか?」
「ーーーーーーま、間抜けは、、、、俺だったという、ことか」
「さぁな。ただお前は見くびった。俺を豚だというだけで見くびった。藁さえなければ狩れると思った。豚は狼に食われるものだという常識にーーいままでそれで何匹も食ってきたかもしれないがーー俺に無思考に当てはめた」
豚の一般的な脂肪率はおよそ15%。しかし、長男豚のそれは、一桁。そのおおきなおおきな、美味しそうに見えた体の大半は、筋肉。
豚は膂力を込め、蹄を狼へ向ける。
「ーーーー豚を、舐めるな」