「経年劣化ときこりのじいさん」ショートショート
「やれやれ、この斧も鈍っておるわ」
「おやおや、おじいさん。どうされましたか」
旅人は、ふてくされる老人に話しかけた。
老人は「なまくら」な斧に腹を立てているようだった。
「まったく最近の斧はダメだね。すぐにダメになる。わしの若い頃の斧は切れ味がもっと鋭く、ずっと鋭さを保っていた」
「なるほど。いまのはそうではないと?」
「ああ。そうさ、きっと鍛冶屋の腕が鈍ったんだろう。昔はよかったがいまでは腕も衰えてしまったのだろう」
「そうなのですか? よく切れそうに見えますが」
旅人の目に映る斧は、まだ濁りもなく澄んだ鋭さをそなえているように見えた。
「いやいや、素人目にはそう見えるかもしれんが、わしの目はごまかせんよ。何年、きこりをやっているとおもっているのだ」
「いやはや、それはごもっともですね」
「まぁ見ればわかるよ。ちょっと斧を使ってみよう」
そういって老人は、斧を振りかぶる。が、その斧は木に浅く刺さるだけだ。なんどやっても切れていかない。
「ほら、みてみなさい。まったく切れないよ」
「なるほど。では、昔から使っている斧ではどうなのですか?」
「これもダメなんだよ。もう使い古して、昔の切れ味はなくなっているよ」
「そうでしょうか? 綺麗に手入れをされているようですが」
「ああ。長年愛用していたからね。研いでつか続けてきた。しかしこれももう寿命だ。切れなくなってしまったよ。ほら」
そういって、老人は長年愛用した斧を振るったが、こちらも浅くささるだけ。木の表面を削る程度しか刺さらない。
「まったく、困ったもんだ。道具がなくちゃ、きこりもやっていけないよ」
「そうですね。きっとそろそろ御隠居したほうがいいという思し召しでしょう」
そう旅人は告げた。
「歳とともに、腕が衰えてしまうのは仕方ありませんから」
旅人は力なく斧を振るう老人の姿を思い出しながら、そういった。
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