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短編📕本当は、ずっと泣きたい

私は思い出していた。
すると、
「ねぇ、いつまで思い出と過ごしているの?」
「心」が話しかけて来た。
「え?」と何かを探すように周りを見た私は
自分の脈が早くなっているのか分かった。
「もうすぐだね、泣きながらアパートに一人帰った記念日。ドラマのように」
心が自分に話かけている事に気付いた。
「うん、覚えているよ」と自分の心に呟いた。
「あの日はきっと、一生忘れたくないし、忘れられないかな」すると、
「ずっとずっと、治らない傷があるんだけど。治す気はないの?ずっと傷跡をつけて一緒に生きていくの?」
「…ダメ?決して嫌な傷ではない事、分かっているでしょ?」
「そうだけど、もうどれくらい満たされてないのかな?たまには泣いて欲しい。あの時から変わらないまま過ごしているのは正直しんどいかな」
「ごめん、治す気は…無い。大切な思い出だから。でも日常で結構泣いていると思うよ?私って泣き虫じゃん?」
「それは、上っ面だよ。感動する映画とかドラマね。こっちには全然響かない。心底温まる涙が欲しいよ。でないと、身体に症状として表しちゃうよ?風邪か眠れない日々かどっちがいい?」
「痛いところついてくるなぁ」
確かに…。私は全然泣かなくなっていた。
「本気で涙を流すのは、いつになるのかな?」
「いつかな…?」
きちんと考えなきゃ。
これから一生一緒に生きていく心の事を。
「きちんと考えるから、今は2月16日が過ぎるまで待って貰ってもいい?」
「分かった、恋は盲目だね」
そう言い、ドキドキなっていた私の脈は普通に戻った。
あの日、確かに幸せで、バレンタインだと疑われそうだから。
わざと一日ズラして会った。
楽しくて。でも寂しくて。
人生で一番涙を流して。
次の日は上瞼が膨らんで。
一生懸命、眼を開けているのに視界が少ししか写らないほど腫れ上がっていた。
「そっか、また思い出す日がやって来たんだ」
あの人の事はいつまでも、これから先ずっと、嫌いになる事は無いだろう。

決して劣化しない思い出が、楽しさと苦しみを年に一度くれ続けている。

あの人が本気の涙を教えてくれただけ。
そう思っていたけど、それから本気で泣けていなかったのかもしれない。

「恋って凄いな…」
そう、私には勿体無いほどの出来事だった。