連載小説「オボステルラ」 【第二章】54話「その旅路の向こうには」(1)
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その旅路の向こうには
「というわけで、私もあなた達の旅について行くことになったから」
翌朝、少し憮然としながら、そう切り出したナイフ。
いよいよ旅の具体的な計画を立てるため、一同は休業中の女装バー『フローラ』のラウンジに集まっていた。みな、テーブル席についている。ミリアは驚いて思わず聞き返した。
「え? どういうわけで?」
「ほんと、どうしてなのかしらね」
じろりとリカルドを睨むナイフ。リカルドはいつもの、少し冷めたような微笑だ。
「まあ、でも、皆がイヤだというのなら仕方が無いから、私は引き下がるけど。どう?イヤでしょ、私が来るの、イヤよね? とーっても気を使うわよね? 正直にイヤって言っていいわよ」
ナイフは誘導尋問的に皆に呼びかけるが、ゴナンが目を輝かせて答えた。
「そんなことないよ。ナイフちゃんが来てくれるの、すごく嬉しい…」
「……!」
澄みきった瞳でそう言われてしまい、ナイフは次の句を継げない。そして、ちょっとまんざらでもない気持ちになってしまう。
それにしても…、とエレーネが続けた。
「あの、少し込み入った話を聞くけど、リカルドとナイフは、つまり、恋人同士なの?」
「はあ?」
「えっ?」
2人は揃って、驚きの声を挙げる。ミリアは「まあ」と少しときめいた表情。
しかしナイフは即座に否定する。
「やだ、やめてよ。確かに私の“対象”は男性だけど、リカルドとはそんなんじゃないわよ」
ミリアは残念そうな顔になる。
「…では、ナイフはリカルドに、何か借りや恩があるの?それとも弱みを握られているとか?」
「……?」
二人は顔を見合わせる。
「…いや、どちらかというと、僕の方がナイフちゃんに対して、恩義があるような……」
「だったら、なぜ、ナイフはこの店から離れてまで旅に同行するのかしら。あ、ナイフが来るのがイヤというわけではないのよ。ただ、私には今いち理解ができなくて…」
「……あら、ほんとね。やっぱり、私が着いて行くのは、おかしい気が…」
「エレーネ、もうその話は終わりにしよう。ナイフちゃんの気が変わってしまう! とにかく、僕がお願いしたんだよ。僕が知る限り最強の護衛だから!」
焦るリカルド。そして無理矢理、話題を変えた。
「ナイフちゃんがいない間のお店も、心配ないんだよね」
「ええ」
ナイフは、隣のテーブルに呼んでいたローズとロベリアの方を向いた。まだ先日の傷が残るロベリアは、今日は普通のおじさんの服装だ。
「今までも、私が旅行なんかで不在にするときはローズちゃんにママをやってもらっていたの」
「ええ、そうねぇ。ちょこちょこ、ママもしてるわ」
緩やかに笑うローズ。
「今回はどれくらいの期間になるかは分からないけど、店の営業停止期間の2ヵ月以上私が戻らなくても、ローズちゃんに任せれば大丈夫だと思う。お店はね。ただ、ただ……」
そう言って、ロベリアの肩に手を置くナイフ。
「お金の管理だけは、ロベリアちゃん、あなたにお願いしたいわ。ローズちゃんはお金に関しては、どんぶり勘定もいいところなの。いえ、もうザル勘定ね、それもかなり目が粗いザル。この子に任せると、たぶん、1ヵ月も持たずにお店が破綻する…」
「え?」
ロベリアは驚いてナイフを見つめる。てっきり、自分に何かペナルティを申し伝えるために、この場に呼び出したと思っていたのだ。
「でも、私は、あんな問題を起こしたのに……」
「だから、それはたいしたことないっていったでしょ? このお店で頑張ってくれるつもりがあるなら、ぜひお願いしたいのだけど。きっと適任だと思う。信用しているのよ」
「ナイフちゃん…」
ナイフの人を見る目は確かだ。ロベリアは少し目を潤ませて、深く頷く。
「事務経理関係の業務は得意だから、任せて。絶対にこのお店を潰したりはしないよ」
「頼もしいわね。いい人材がいて、良かったわ」
ナイフはポンポン、とロベリアの肩を叩いた。彼は少し微笑み、ホッとした表情を見せたが、すぐにハッとした表情で立ち上がった。
「……ミリアちゃん…。その……、バッグの件は申し訳ないことをした。彼らがあの後バッグをどう扱ったか分からないが、行方を捜せるように努めるから…」
「いいのよ、気になさらないで。あのバッグはあのような妙な形だったから、し…、家でも誰も使わずにしまい込んでいたものなの。もし見つかれば、それはそれで保管していただけるとありがたいわ」
背筋を伸ばしてそう語る小さな少女に、ロベリアは深く頭を下げた。
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