『戦場の人事係 玉砕を許されなかったある兵士の「戦い」』 草思社より刊行 地味に、好評販売中です
そのときだった。
石井は、まだ帰るなと言わんばかりに私の目を見据えた。
気圧されたような気がした。
石井の重い手が、ようやく決意を得たように不意に解けた。かたわらに手を伸ばし、机の上に置いたのは、濃い茶色の紙でカバーされた大判の一冊だった。
ガマから掘り起こしてきた戦時名簿とメモが、予期せずに私の前にあらわれた。
一人の兵士に託された「最後の命令」
そして、男の戦いは終戦とともに始まった…
「戦場がもたらす罪は決して戦場だけでは完結しない。永く人間をとらえ、そして蝕むのだ。戦争という状況は決して、時を経ても人間を解放しない。」(七尾和晃)
言葉の彼方に風景を観る作家、七尾和晃が15年をかけて追い続けた、ある男の魂の軌跡−。
それは沖縄戦、最後の秘話をひもとく旅路となった。
「戦後を生きるすべての人に、こんな人物がいたということを、この人物の思いを知って欲しい。
無名の人間が歴史を創る。
懸命に生きた一人ひとりの言葉と姿を刻む。
きっとそれが、歴史の実相を映し出す。」(七尾和晃)
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