恋しさを呼ぶ季節
「懐かしさ」は、どうしていつも例外なく「恋しさ」
という感情を連れてくるのだろう。
懐かしい人に偶然出会すと、それがなんとも思って
いない相手だったとしても、別れ際、いつも必ず
恋しい、という感情が芽生える。
人だけじゃなくて、特定の時間の風の温度や風景、
季節の匂い、昔よく行った場所、そういうものが
引き金になって、突然懐かしさに襲われることがある。
今それがなくてもなんの問題もなく日常を過ごして
いるはずなのに、思い出してしまうと、ほんの少しだけ
恋しさが心に充満して、立ち止まりたくなる。
楽しかったことも、悲しかったことも、すべて
「いい思い出」として美化されて、「懐かしい」
というラベルが貼られて記憶の中にしまいこまれて
いるからなんだろうか。
それとも、もうこの先の自分とは交わることがない、
失ったものたちに対する、切なさが愛情とすり替わって
いるのだろうか。
夏の夜は、一年を通してもそういう「懐かしさ」が
たびたび戻ってくる時間だな、といつも思う。
一瞬だけでも自分の中に帰ってくる記憶たちは、
きっと自分の人生にとって、大切なできごとだったの
だろう。
わたしも誰かに、こんな風に思い出される瞬間が
あるのだろうか。
できればあの人にはまだ、「懐かしい」と思い出される
ような過去になっていませんように、と静かに願う。
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