「会いたい」と言われる大人になりたくて。25歳の私が学ぶ、林さんの"大人の条件"
渋谷のワインバー"bar bossa"の店主である林伸次さんの新著『大人の条件』を手に取ってまず最初に衝撃を受けたのは、「林さんの年齢が自分の父親と同じくらいである」という事実を知ったからでした。
2年前、林さんの書いた小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』と出会い、帯に書かれた言葉と目が合った瞬間、私は恋に落ちていました。
小説は短編集で、内容は渋谷のバーの店主がカウンター越しにお客さんから聞いたラブストーリーを綴ったもの。これを読んだとき、私はてっきり著者の林さんが30代くらいの、自分とあまり歳の変わらない男性が書いているものだとばかり思っていたのです。
なぜなら、その小説の中で描かれている恋や愛の形があまりにも自分の感覚に近く、心にすっと入ってくる言葉や情景ばかりだったから。言葉の選び方や登場人物の心の動きの繊細な描写からは、50代の男性が書いているなんて微塵も感じられませんでした。
1ヶ月前、偶然見かけた林さんのnoteに、「新著が出たので、僕とこの本について取材してください」と書かれた記事を見つけました。「あの林さんにお会いして、お話が聞けるなんて。こんな機会は滅多にないだろうな…全くの素人だけど、やってみよう」と、思い切って取材をお願いすることに。
そして新著『大人の条件』を購入し、ページをめくって衝撃を受けたのです。あの林さんが、まさか、自分の親と同じくらいの年齢だったなんて、と。
さらに驚いたのは、『大人の条件』という、若干身構えてしまうタイトルに対して、文体がとても丁寧で柔らかく、「大人の条件を上から目線で教える」という押し付けがましい印象が一切なかったこと。
「こうした方がいいですよ」とアドバイスをされているのに、こんなに抵抗なくすんなり受け入れられたのは、はじめてに近い感覚でした。
『大人の条件』を読み、私は改めて思いました。
林さんのように、若い世代にも「会いたい」と思われるような大人になるには、どうすればいいのだろう?今から何か、できることはあるのだろうか?
そこで今回は、25歳という「大人」を意識し始めた今、これから数年間の生き方のヒントを得るため、林さんの「大人の条件」について、お話を伺ってみることにしました。
1. 自分や他者との向き合い方について
ー大事なのは、自分のことを客観視する力
岡崎 『大人の条件』を読んで、林さんの文章はとても柔らかくて読みやすいなという印象を受けました。1つひとつのアドバイスはとても的確で、たまに耳が痛いなと感じる内容もあったのですが、どれも素直に受け入れられる感覚が新鮮でした。
林(敬称略) ありがとうございます。でも、それは僕がいい人ぶっているだけですよ(笑)
岡崎 そんなことないです(笑)。本を読んでいて、林さんは年齢や性別に関係なく、色々な方と良好な関係を築いていらっしゃるんだなと感じました。誰とでも仲良くなれる、というのは昔からなんでしょうか?
林 うーん、この仕事をしていくうちに、少しずつ今のような性格になってきたのかなとは思います。
岡崎 そうなんですね。年齢を重ねるにつれて、自分とは異なる価値観や考え方を持つ人と理解し合うことは少しずつ難しくなってくるのかなと思うのですが…何か秘訣はあるのでしょうか?
林 自分の中で(嫉妬など)何らかの感情を抱いたときに、自分を上から見て、「どうして自分はこう感じているんだろう?」「どうして今、こう思っているんだろう?」と考えるようにはしています。自分を俯瞰して見ると、今自分が抱いている感情の理由がわかって、次へのステップが明確になるんですよ。相手に対しても、基本的には同じです。自分とは違う考え方を持った人と話す時は、「どうしてそう思っているんだろう?」と考えて、調べたり、直接聞いたりしていますね。
ー読書を通して自分の感情と向き合う習慣を身につける
岡崎 「自分自身を客観視する」ということですね。それは、最初からできていたというよりは、どこかのタイミングでできるようになったことなんでしょうか?
林 そうですね。若い頃、自分の人生ってうまくいかないなあと思った時があって。この感情をそのまま誰かにぶつけるんじゃなくて、どうしたら前に進めるんだろう、と考えてみたんです。その頃は、心理学系の本をけっこう読んでいて。読んでいるうちに、自分の感情と向き合えるようになったのかもしれません。
岡崎 本を読むと、自己理解が深まりますもんね。ちなみに、「本を読むのが苦手」という人が自分と向き合えるようになるために、何かできることはあるのでしょうか?
林 まずは、自分が好きなジャンルや興味のある分野の本から少しずつ読んでみるのが良いんじゃないでしょうか。自分の感情を客観視したり、その上で感情をコントロールしたりするのは、訓練していくしかないので…少しずつ本を読んで考える習慣を身につけていくことから始めるといいと思います。
▼まとめ
読書を通して自分のことを理解し、感情的になりそうな時は自分を俯瞰して観察してみる。そうすることで、林さんのように自分の感情をコントロールし、異なる価値観や考えを持った人ともフラットに対話ができるようになるのかもしれません。
2. 恋愛と結婚について
ー「出会いがない」と悩む女性が恋人をつくる方法
岡崎 『大人の条件』には恋愛や結婚についてのアドバイスもありましたが、普段から恋愛相談を受けることは多いのでしょうか?
林 そうですね。最近は特に、婚活の相談が多いです。女性の相談を受けていて1番多いのは、「出会いがない」という悩みですね。
岡崎 そういう悩みに対して、林さんはどんな風に回答されるんですか?
林 あるお客さんに教えてもらった方法なんですが…「絶対に恋人ができる方法」として、毎回これを紹介しています。内容としては、「1ヶ月に1回、知らない人と会いたいので、紹介してください」とFacebookのようなSNSで告知する。これだけです。告知を見た知り合いに毎月1人ずつ紹介してもらい、相手と1対1で会います。それを続けていると、自分自身も恋愛モードになってくることと、色々な人と出会って自分の好みや価値観が分かってくることで、「あ、この人いいかも」と思う瞬間が来るそうなんです。
岡崎 とてもシンプルな方法ですね。
林 はい。世の中には、真面目で誠実な「いい人」なのに、女性に慣れていなくて恋愛市場に出てこない男性が多いんですよ。アプリや合コンで出会う人たちって、女性慣れしていたり、恋人がいたり、既婚者だったりする場合も多いじゃないですか。でも、そういうところでは出会えない人たちが、紹介だと出会うことができる。こういう人たちは、結婚相手には非常に向いているのに、恋愛市場には出てこないんです。彼らと出会うためには、紹介が一番なんです。
岡崎 なるほど…とても説得力がありますね。ただ、紹介って、する側もされる側も、ハードルが高い気がします。
林 ええ、まさにそうなんです。呼びかけても、最初は全然紹介されないらしいんですね。そういうときは「誰でもいいから紹介してください」と個別で連絡をしていくと、「誰でもいいなら…」と言って、紹介してくれる人が現れる。そういう場合は、そうでないときと比べて「少し残念だったな」と思うような相手が来ることが多いようですが、それもまた自分自身の好みや価値観の理解につながるので、いい勉強になった、と捉えて次に進むのがいいと思います。
▼まとめ
恋愛や結婚の相談を日々、多く受けているという林さん。彼のもとに恋愛相談やノウハウが集まってくるのは、自分が知らないことに対する好奇心や、相手の悩みを聞く際の姿勢が相手を「話したい」という気持ちにさせているからなんだろうなと感じました。
3. 好きなことと仕事について
ー継続することで見つかる「面白さ」もある
岡崎 結婚したいなら早い方がいい、というのは理解しているのですが…20代のうちに、やりたいこともたくさんあって。林さんは、飲食のお仕事が好きで、バーテンダーという道を選んだのでしょうか?
林 うーん、そんなこともないですよ。周りにはこの仕事が向いていると言われて続けてきたんですが、好きで始めたわけではなかったです。本当はカフェとかやりたかったんですけど、当時は妻も子供もいたので。バーの方が儲かるなと思って、この仕事にしました。
岡崎 好きでこのお仕事を始めたわけではないんですね…!今のお仕事は25年間継続されているとのことですが、最初は好きではなくても、続けているうちに好きになっていくものなんでしょうか?
林 そうですね。「好き」と言うほどでもないですが、楽しいなとは思っています。僕は25歳でバーテンダーの修行を始めて、そこで初めて自分の知らない世界や人のことを知りました。お店をやっていると色々なお客さんが来ますが、この仕事をしていなかったら、そういう人たちのことは知ることもなかった。そんな、普段出会えない人に出会えるのは、この仕事の面白いところですね。
ー「好きなこと」を仕事にするためには、毎日アウトプットし続けることが重要
岡崎 お店を持っている方は「飲食が好きで、自分の夢を叶えた人たち」というイメージがあったので、少し意外でした。林さんも、自分の夢を叶えられた方なのかな、と。
林 ある意味では、叶っていますね。夢というほどでもないですが…
岡崎 夢といえば、「小説家になりたい」ともおっしゃっていましたよね。私も文章を書くのが好きなので、いつか仕事になったらいいなとは思っているのですが、今後どういうスパンでそれを叶えていけばいいのか分からなくて。
林 それだったら、毎日書いた方がいいですよ。
岡崎 皆さんそうおっしゃいますよね。夏に1ヶ月間、毎日noteを書いていた時期もあったのですが、今はやめてしまって…
林 ああ、やめてしまうと再開するのが難しいですよね。僕が毎日書くことをおすすめしている理由は、「とにかく量を出すことで、その中から1つでもいいものが出てくる」からです。毎日文章を書いていると、自分の限界に突き当たる時がきます。その時に、「何か他に書けそうなことはないか?」と考えることで、自分の限界を超えることができます。それを毎日継続していると、自分の限界を超え続けることができるんですよ。たくさん書いた中で、良い文章が1つでも出てくれば、それでいいんです。継続することで、文章や思考の解像度が上がってくるんですよね。
ー自分のコピーにならないように、人と話す
岡崎 その感覚は分かる気がします。林さんは、noteなどの連載だけではなく、書籍も何冊か出版されていますよね。1つの作品が高く評価された後、「それを越える作品を出さないと」というプレッシャーを感じることはありますか?
林 ありますね。「当たり」を探してしまうというか…その後に書く文章が、自分のコピーになってしまうんですよね。僕はそういう時、できるだけ人と話すようにしています。自分とは全く違う人と話すことで、自分の知らない世界を知ることができる。そうすることで、自分のことも発見し直すことができる。そこで気づいたことや考えたことをまた文章にする、という方法で毎日「書くこと」を続けています。
▼まとめ
「最初は好きじゃなくても、続けているうちに面白さが見つかる」というのは、社会人3年目の私にとって非常に心強い言葉でした。どんな物事にも必ず「面白さ」を見出せるのは、林さんの好奇心や探究心が理由なのかなと思います。
4. マナーやふるまいについて
ー職場の同僚や恋人のふるまいで気になることがあったら、身内の人に伝えてもらう
岡崎 『大人の条件』の中で特に印象的だったのは、マナーについてのアドバイスです。私は一緒にいる相手に対して気になったことがなかなか言えない性格なので、きちんと言えるようになりたい…!と思いました。
林 同世代の相手だと、なかなか言いづらいですよね。ただ、相手のためにも言った方がいいとは思います。マナーについて書いてある記事のリンクを、相手にさり気なくシェアするとかはどうですか?「これ、勉強になったなあ」とか言って。不自然ですかね(笑)
岡崎 自然に伝えるのは難しそうですね(笑)
林 これは本当にあった話なのですが、以前営業職のお客さんに、「部下の口が臭いんだけど、本人にどう伝えたらいいか分からない」と相談されたんです。そのお客さんは、その部下の奥さんとも知り合いだったので、奥さんに伝えてもらったそうです。こういうのは、家族とか、身内に伝えてもらうのが一番傷つかずに済むのかもしれないですね。恋人の場合は、同性の友達に伝えてもらうとか。
ー言うキャラクターになる、仕組みをつくるのも手
林 そういう指摘を「言うキャラクターになってしまう」というのも1つの手かもしれないですね。僕の妻は、遠慮なく言ってくるので(笑)。
あとは、「仕組みをつくる」のもいいと思います。先ほどのお客さんの話だと、会社で毎朝営業職の社員はお互いの口臭をチェックするルールを決めたそうです。そういった場を設けることで、思ったことを堂々と伝えられるようになったとか。プライベートでも、そういう仕組みを作ることで伝えやすくなるかもしれないですね。
岡崎 「仕組み化」については、私も何かできないか考えてみます…!人間関係からマナーのことまで、今日は林さんからたくさんのノウハウをお聞きすることができました。本当はまだまだお伺いしたいこともあるのですが、あっという間に時間が過ぎてしまいました…!次は、お客さんとして相談に伺ってもいいですか?
林 もちろんです。お待ちしています!
▼まとめ
柔らかな空気を纏いながらも「思ったことはきっぱりと相手に伝える」という林さんの芯の強さは、お話していてとても印象的でした。疑問や違和感は曖昧にせず、相手に伝える(ただし、伝え方は工夫する)。これはどんな相手とのコミュニケーションにおいても大切なことだなと、改めて気づかされました。
5. 「会いたい」と言われる大人になる、3つの条件
『大人の条件』の中で、林さんは最後にこんなことを書かれていました。
「ああ、この人、すごく年上のおじさんだけど、一緒に飲みに行って、いろいろと話をしてみたいな」って思われるって、大人にとって、実は最高の勲章です。
林さんと実際にお話してみて改めて感じたのは、林さんは、25歳の私にとっても「また会いたい」「もっとお話したい」と思うような大人だった、ということでした。林さんとの会話を通して、もっと自分とは異なる年代の「大人」と話がしてみたい、とはじめて思いました。
一体、林さんの何がそうさせているんだろう…?
林さんへの取材を通して感じた「会いたい」と言われる大人の条件について、最後に私の考えをまとめてみようと思います。
「会いたい」と言われる大人の条件:
①好奇心がある
②否定しない姿勢
③客観視する力
①好奇心がある
自分とは異なる考え方や価値観を持つ人、自分の知らない物事への好奇心。常に「これはなぜか?」とwhyを問い、仮説を立て、確認できることなら自分の目や耳で直接確認をする。林さんのそんな姿勢が、自分の世界を狭めずにどんどん新しいことを吸収し、時代の急激な変化にも身軽に対応できる理由なのではないかなと思いました。
②否定しない姿勢
相手がどんなことを言っても、最後まで話を聞くこと。林さんとお話をしていて感じたのは、こちらの話に対して否定や批判を全くしない、ということでした。相手の話に対して何か思うことがあったとしても、まずは最後まで話を聞く。その上で、疑問に思うことがあったら、相手にさらに聞いてみる。「決して相手を否定せずに、傾聴する姿勢」は、はじめて話をする相手にも、安心感を与えているのだろうなと感じます。
③客観視する力
自分にも他人にも、個人的な感情や固定観念を持たずに客観的なデータや情報をもとに考え、判断する力。ご自身も「マーケティングやリサーチが好き」とおっしゃっていましたが、主観ではなく客観的な情報をもとに考えたり話したりしているからこそ、林さんは年代や性別、職業など何も共通点がない人とも楽しく会話ができるし、誰からも「話してみたい」「話を聞いてほしい」と思われるのではないかなと思いました。
私にとって、今回のインタビューは人生ではじめての経験でした。また、普段自分の親世代の方とお話する機会もほとんどないため、最初はかなり緊張していました。ですが実際に林さんにお会いして話をしていくうちに緊張が溶け、気づいたら私の方が喋ってしまっていた…という場面も何度かありました。
話をするのも聞くのもお上手な林さんは、年齢や性別の壁なんて軽々と越える、「会いたい大人」を体現しているような方でした。これから大人への道のりを進んでいく中で、『大人の条件』と林さんの存在は、私にとって心強い道標になりそうです。
林さん、この度は貴重なお時間をいただき本当にありがとうございました!
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