介護施設でのパステルアート |理想と現実の狭間で悩んだあれこれ
特養、デイ、サ高住、グループホーム、小規模多機能、有料老人ホームまで、様々な施設を訪問しました。正直申しますと、自分の理想と現実との狭間で悩みながらの8年でした。うまくいった!なんて日はほとんどなくて、車中で泣いたこともありましたよ;;今日はそんなところを書き残してみようと思います。そして、心掛けたことも。
【理想】
介護施設への外部講師を始めたころは、一般教室と同じように「誰もが簡単にきれいに描ける」パステルアートを楽しんでもらおうと思っていました。初日で挫折しましたね。。
【現実】
一般教室とは違うアプローチが必要でした。図案作りでは「シンプルなものこそ難しい」と実感しました。そして、トーク力大事。
▶利用者さんのモチベーション:
一般教室では「絵を描きたい」「パステルアートをやってみたい。興味がある」という方々が参加します。ですが、介護施設ではレクリエーションとして取り組んでいるため、「絵に興味がない」「苦手だ」というかたもグループに参加されます。机につくまで、「なにが始まるの?なにをさせられるの?不安だわ!」という方もいました。「私は描かないからね!」とご機嫌斜めな方もいまして……そんななかで、パステルを楽しみにしてくれた人もいて、私はかなり励まされました。
▶パステルアートの絵柄や描き方に馴染めない:
絵といえば写真のようなリアルなものを好まれる方が多かったです。趣味で絵を描いていたという方は、色鉛筆・水彩・油彩などです。そもそもパステルアートというものを知りません。パステルスティックは直書きするものであって、削って粉にして使うという作業自体に馴染みがありませんでした。削ったパステル粉を指につけて描く、そのやり方のほうが珍しいのです。新しいやり方を「難しい」と感じる利用者さんは多いものです。
▶参加者同士の希薄な関係:
施設にもよりますが、レクに参加している利用者さん同士、あまり打ち解けていない場合もありました。毎回、メンバーが変わるのでお互いのことを覚えられないというのもあるのかもしれません。自然と隣同士で助けあって絵を描く、という私の理想はなかなか難しかったですね。また、私自身、スタッフさんのように毎日、顔を合わせているわけでもないので名前もわからずにレッスンをすることにかなりストレスがありました。名札をお願いしましたが、その日によってあったりなかったりでした。
▶身体的な面:
年を重ねると指先の震えや運筆力の衰え、視力や聴力の低下があります。認知症の方もいます。誰もが簡単に描けるわけではありません。この場合、パステルアートだけがレクではないので、決められた時間でワークを終えるために施設側と話し合い、参加者選びのボーダーラインを決めました。
【そんなこんなで、どのような心掛けをしたのか】
皆さんが「それぞれにレクの時間を楽しみ、場を共有すればいい」と思うようになりました。絵を描かなくてもいい。完成させなくてもいいと肩の力を抜きました。声をかけあい、楽しい時間を共有すること。絵を指導する時間を減らし(そのためにはシンプルな図案作りが肝です)、利用者さんとの交流に時間を使うようしました。
▶図案制作で気を付けたこと:
①工程は少な目。集中力が途切れない40分程度で完成できるもの
②イラストちっくなデフォルメされた図案よりも、「それ」とわかる形にすること。ハトサブレのようなかわいい鳩よりリアルな鳩が喜ばれました。
「山は山らしくあれ」の記事をご覧ください。
③運筆力の弱い方もいらっしゃるので、なるべく「消し作業」を少なくすること
④ 色数が多いと迷われるかたも多いのでモチーフ自体は4色程度に抑えること。
▶描き方にこだわらない:
図案の通りに描かなくていいと思っています。模様やグラデーション、ハイライトなど気にすることはありません。それをうまく描こうと時間をかけるよりは、利用者さんの個性がでる部分に時間をかけて楽しんでもらいました。
また、パステルを削って粉にして使う、型紙を使うといったパステルアートの技法にこだわりませんでした。本来のように直書きをする方も多く、そのままで塗ってもらいました。
そして、パステルアートにうまいへたはありません。これをしてはいけないという制限もありません。スタンプを使ってもOK!なにかを貼り付けてもOK!本当に自由です。
▶飽きない・疲れない画用紙のサイズ:
施設ではB6(128mm×182mm)かPhoto2L(127mm×178mm)サイズの画用紙を使いました。最初はハガキを使っていましたが、小さいと描きづらいようですし、あまり大きいと時間がかかって利用者さんが飽きたり、疲れてしまいました。また、このサイズの額は安価に手に入りやすいのでオススメです。
▶スタッフさんも一緒に描いてもらおう!:
かならずおひとりスタッフさんをつけてもらいました。利用者さんの安全、介助のためです。そして、スタッフさんにも同じ机で絵を描いてもらいました。利用者さんとスタッフさんが同じ目線で描くって面白いですよ。慣れた利用者さんがスタッフさんに絵を教えることもありました。スタッフさんが「ありがとうございます」というと利用者さんはとても嬉しそうでした。
▶綺麗な制作物を残すよりも声かけが大事:
レッスン中、一番気を遣ったのは「ひとりひとりへの声掛け」や「相手に伝わるような易しい話し方」や「柔らかな表情」での場づくりでした。利用者さんの「楽しかった」という言葉がなにを指すのか? 絵が描けたこと、声をかけてもらえたこと、没頭できたこと、みんなとおしゃべりできたこと等々、ひとりひとり違いますので、私は「うまく描かせてあげよう」と頑張りすぎず、描いている時間を楽しむことに寄り添いました。
▶一番大切なのはレッスンの後の鑑賞会です:
これは一般教室でも同じです。最後、お互いの絵を見ながら感想を言い合います。「可愛いね」「素敵ね」「いい色ね」など。声を掛け合うことで優しい気持ちになれます。ワークを通じて、みなさんの心が通い合う瞬間です。
【最後に】
今となっては、施設でのパステルアートの経験は人生の糧となっています。私にとって絵を描くという事はどういうことか?
私にとってのパステルアートとは?
と、何度も自分に問いかけました。
もし、これから施設へ訪問したいとお考えの方は、最初はデイサービスなどがいいと思います。デイですと、比較的元気でしゃきしゃきした方々が集まっていると思われます。施設によっては利用者さんの介護度が高いところもありますので。まずは施設を訪問して、施設側としっかり話し合って始められるといいと思います。
以上の経験を経て、現在、私は直接介護施設へ訪問するのではなく、施設で働いているスタッフさんへ向けてレッスンをしたいと考えています。レッスンで習得したものを、ご自分の施設でも活用していただければ幸いです。実際にこれまでも、私の教室には多くのスタッフさんが参加されていました。「次のレクで描けるものを習いにきました」といって型紙を持ち帰るかたもいました。
現在、コロナ禍でもあります。スタッフさんが施設でできるように、YouTubeに易しめのパステルアートの動画を投稿しています。利用者さんに配慮して、消し作業少な目です。型紙も無料でDLできるものもありますので、ご活用くださると嬉しいです。
最後までお読みいただき有難うございました。
思い返して、ああすればよかった、こうすればよかったと、後悔することも反省することもたくさんあります。そして、いつも私が来るのを楽しみにしてくれていたおばあちゃんに心から感謝しております。「ありがとう、また来てね」と握ってくれた手の温もりを忘れません。
よろしければ創作のサポートお願いします。画材や本を買って新しい作品の糧にします。