要約 『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』 唐澤俊輔
全体要約
カルチャーとは、その企業における文化や行動規範のことである。それは自然発生的に生まれるか、あるいは人工的に作られるかの 2 系統が存在するが、自社の強みとしてアピールする、あるいは継続的に醸成させて管理していくには、意識的につくられたカルチャーであることが望ましい。
カルチャーをつくるとはつまり、会社としてのビジョン・ミッションを掲げ、カルチャーモデルを定義し、ピープルマネジメントを通じてカルチャーを浸透させ、社員一人一人がそれを体現できる状態をつくることに他ならない。
ビジョンとは実現したい社会の在り方であり、ミッションとはそのために会社が成すべき使命だ。これがカルチャーの基本骨子になる。
カルチャーモデルとは、ビジョン・ミッションを踏まえた上で、自分たちがどう在りたいかを規定したものだ。それは決定された上で、さらに言語化・可視化されることで、実践可能な状態に落とし込まれなければいけない。
そうして作られたカルチャーは、ピープルマネジメントによって浸透させなければいけない。規定されただけでカルチャーは実践されない。それは一人一人の社員と最も距離の近いマネージャーによって、明確な意思の下、意識させられ、実践できるようにされて初めて、カルチャーは社員に浸透する。
第 1 章: カルチャーとは何か
カルチャーという言葉に形を与えるのであれば、「企業と社員が共有している価値観や文化、行動規範」と言うことができるだろう。
カルチャーは 2 種類に大別することができる。それは、自然発生的に生まれたカルチャーと、意図的に作られたカルチャーである。多くの企業におけるカルチャーとは、前者である場合が多い。そしてそれは往々にして明文化されていないカルチャーであり、例えば企業と就職者との考えにギャップが生じたりするのもこのケースであることが多い。カルチャーを意図的に作成することはもちろん難易度が高いが、もちろん不可能ではなく、リターンも多い。
カルチャーを意図的に作るには、ロードマップの大筋として
1. ビジョンあるいはミッションを設定し
2. 戦略としてのバリューを設定し
3. カルチャーを言語化する
ことが必要になる。
ビジョン、ミッション、バリューの定義も揺れるところではあるが、一つの説明としては
・ビジョン... 実現したい社会の在りよう
・ミッション... ビジョンを達成するために会社が果たすべき使命
・バリュー... ミッションを達成するための行動指針
と言えるだろう。
つまりカルチャーとは、ビジョン・ミッション・バリューのインプットのもとで、アウトプットされるものと換言することができる。
第 2 章: どういったカルチャーをつくるべきか
カルチャーの在り方として絶対的な正解は存在しない。カルチャーの形は多様であり、考え得る選択肢のうちからどれが自分の会社にフィットするか、どれが勝ち筋になるかを主観的に判断しなければいけない。
とはいえある程度、方向性の分類は可能である。それは経営者のリーダーシップを参照する方法で、それに基づく形でおよそ 4 つに分類できる。
1. カリスマリーダー経営... 個のリーダーの強みを最大化する
2. チームリーダー経営... チームで意思決定し、安定成長を志向する
3. 複数リーダー経営... 権限委譲しつつ管理を行い、トータルで成長する
4. 全員リーダー経営... 個の多様性の価値を最大化する
現状が A の経営スタイルだから B の経営スタイルに転換してはいけないということはない。むしろ成功した企業の多くも途中でスタイルを変更した歴史がある。しかしそれが明確な意思に基づかずに行われる場合は、かなりリスキーだと言わざるを得ない。
第 3 章: カルチャーモデルをつくる
カルチャーを作るための第一歩は、現状のカルチャーを棚卸しすることである。棚卸しに際して参考になるのが、 7S というカルチャーモデルのフレームワークである。7S とは以下の要素によって構成される概念だ。
・Stance: 組織の在り方
・Shared Value: 行動指針
・Structure: 組織構造
・System: 制度
・Staff: 採用や育成
・Skill: 組織としての強み
・Style: 組織風土
これらに分類する形でカルチャーを整理することで、今の在り様とこれから目指したい在り様の乖離が見えてくる。
現状の整理ができたら、ビジョンやミッションを作る。ビジョン・ミッションは会社がどこを目指すのかというゴールの設定であると同時に、会社の存在意義でもある。人はこのビジョン・ミッションに共感を得て、「この会社で働きたい」「あの会社と一緒に働きたい」と思うことを考えれば、これは非常に重要な要素である。
ビジョン・ミッションを決めたら、それと親和する形で先の 7S カルチャーモデルを作成・整形していく。これは前述の経営スタイルと大きく関連のあるものであるので、自分たちがどういった性質の企業であるかを加味して定める必要がある。
詰まるところカルチャーを作るとは、各種の条件やビジネスモデルを踏まえた上で、自分たちの適正に合っていて、その方針下での成長を確信できるようなスタンスを定めることだ。やってみたい、こうなりたい、などの希望だけで決めるのは正しいアプローチとはいえない。
第 4 章: いかにカルチャーを言語化するか
カルチャーを定めたら次に重要なのが、カルチャーを言語化するということだ。望ましいカルチャーを決定すること自体は、あるいは多くの企業で行われているかもしれない。しかし決定したカルチャーを言語化し、一貫してやり切る覚悟を持つという運用まで考えられている企業は多くない。
ここでのカルチャーの言語化とは、「成果主義での評価を行おう」「新卒一括採用で自社らしい社員を育てよう」といった、人事制度や採用方針、さらに踏み込めば育成プログラムや福利厚生などの具体的な実施方針を決めることを指す。抽象的なカルチャーを制度レベルに落とし込んで可視化していく。
その言語化の方法は多くある。例えばメルカリであれば、「メルカリ・カルチャー・ドック」という文書を作成し、今まで漠然と存在していた共通認識を明確に定義することで、カルチャーの実現を現実レベルまで落とし込んだ。
メルカリのカルチャーを 7S で整理すると、以下のようになる。
・Stance: 全員リーダー経営
・Shared Value: 「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」
・Structure: 最小単位のマネジメントを意識し、1 チームは 8 人まで。
・System: パフォーマンス (成果) とバリュー (行動) による絶対評価。
・Staff: 「ミッションへの共感」「バリューの体現」「カルチャーフィット」を採用基準とする。採用は職種別のジョブ型採用。
・Skill: 業界トップクラスの専門的な人材が集まる。
・Style: Trust & Openness ( 信頼を前提にしたオープンなカルチャー )
第 5 章: カルチャーの浸透のさせ方
カルチャーを言語化し計画が完成したら、最後は「ピープルマネジメント」を通じた実行の段階に入る。カルチャーをつくるという行為において、ある意味ではここが一番重要だ。なぜなら、いくら完璧なカルチャーを設計してもそれを浸透させるプロセスがなければ、文字通りそれは絵に描いた餅になってしまうからだ。
カルチャーを浸透させる上で参考になるのが、フィリップ・コトラー氏が提唱する 5A 理論のプロセスだ。それは元々マーケティングの領域で、顧客がプロダクトを通して自己実現や社会的意義を求めるようになっている中、どうすれば顧客に支持されるものを提供できるか、にアプローチするための理論だ。それは、認知 (Aware)・訴求 (Appeal)・調査 (Ask) ・行動 (Act)・推奨 (Advocate) によって構成される。
顧客はまずブランドを「認知」し、ブランドの魅力に「訴求」され、実際に「調査」し、実際に購買 ( = 「行動」)し、それを気に入れば他者に「推奨」する。これと同じことは、カルチャーの領域でも通用する。具体的には以下のような手法が使えるだろう。
・Aware: 一目でわかるグッズを作る、blog を書く、公開 1on1
・Appeal: カルチャーにフィットする人を表彰する、福利厚生とカルチャーをフィットさせる
・Ask: メンター制度やウェルカムランチなどの接点を増やす、オウンドメディアを持つ
・Act: 人事制度にカルチャーを組み込む、360 度評価を導入する
・Advocate: カルチャーを自身の言葉で語れるようにする
通底して重要なのは、カルチャーを浸透させていくためには、現場の人間と日々コミュニケーションを取るマネージャーのピープルマネジメントが欠かせないという点だ。具体的な施策と日々のピープルマネジメントにより、カルチャーは少しずつ社員に浸透していく。
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