抜粋要約 「Leader's Language」 L.デビッド・マルケ
前置き
・本記事は、「Leader's Language 言葉遣いこそ最強の武器」( 東洋経済新報社 ) の抜粋要約である。
・記事筆者の主観により、特に有用と思われる箇所を抜粋した上で要約を行なっている。
・価値ある考え方を切り出していることは保証する。
・筆者の考え方の全てを切り出していることは保証しない。
全体要約
スポーツと同じように、リーダーには「特定の状況ではこうするべき」というようなパターンが書かれたプレーブックが必要である。だが周囲を見渡してみると、確かにプレーブックには則っているのだが、しかしひどく古いプレーブックが至る所で用いられていることに気づく。私たちはまず、自らが無意識に信奉している旧時代のプレーブックを更新し、現代に即したプレーブックに作り替えなければいけない。
古いプレーブックに支配されているのはリーダーだけではない。リーダーのがそうであったのだから、当然リーダーの下についているメンバーにもそれは浸透している。リーダーはこの現状を認識し、意識的にメンバーのプレーブックをも更新する必要がある。その達成のために必要なのは、リーダーの意識と言動の改革である。
メンバーがアラートを出しにくいなら状況に陥っているのであれば、中断の機会を設け、アラートを出しやすい環境へと作り替える。
多様性がないのであれば、自ら異論を唱え、あるいは異論を歓迎し、バリエーションの価値を身をもって伝えていく。
責任感が不足している人には、選択の自由を与える。
長いプロジェクトを行うのであれば、不断の努力を強要するのではなく、適宜休息を入れ、メンバーをしっかりと労う。
突飛なことは何もない。しかしだからこそ、私たちは種々の問題を無意識的に旧時代的なやり方で問題を解決しようとする。
無意識に処理されそうな問題に改めて意識の焦点を当て、その改善方法を言動に落とし込めたならば、あなたは良いリーダーになり、そしてより良いチームになるだろう。
問題提起 (1) 産業革命期の古いプレーブック
産業革命黎明期、当時の工場は規模が小さく、職人個人が独自のやり方で作業を進めるという方法で運営されていた。しかしこのまま産業の規模が大きくなったとしたら、今と同じやり方では効率が悪いと気づいたフレデリック・テイラーは、自らが働く工場の作業の効率化を研究し始めた。
そして彼は調査の末、「各作業において最も効率の良い方法」を導き出し、労働者にその方法を常に利用することを強制した。これにより労働者は、自ら決断を下す責任から解放され、特別な技術がなくともただ肉体を動かすことだけに集中できるようになった。
このテイラーの考えは『科学的管理法』という著書にまとめられ、各業界に方法が伝播、結果として多くの業界でばらつきと無駄が排除され、品質と効率が改善された。各工場の所有者も、この方式の導入により莫大な利益を享受した。
この構想では、労働者に自発性は全く求めない。テイラーは労働者に向かってこう告げる。
「君たちは肉体労働を行うためだけに雇われたのだ」
「考える仕事は別の人がやる」
問題提起 (2) 古いプレーブックと現代労働の非親和性
しかしテイラーのやり方は当時には適していたが、現代の社会に適用するには問題がある。簡単に問題を列挙すると、
・作業者は突然発生した変化に対応できない。
・要求以上の結果に到達することがない。
・作業者の自律レベル、批判的思考レベルが下がる。
などである。
いわゆる部下と呼ばれる作業者を「赤ワーカー」、いわゆる上司と呼ばれ、思考し方針を定める人を「青ワーカー」と呼称するのであれば、現代社会で目指さなければいけないゴールは、「赤ワーク、青ワークのどちらかではなく、両方を各人が行う環境を生み出さなければいけない」というものである。
考える人と作業する人を完全に分断するような旧時代的なプレーブックに則って進行しようとする考えは、現代においては非健全である。従ってリーダーは、この垣根を以下に取り払うかに注力しなければいけない。
そしてこの垣根を取り払うために必要だと私が考えるのが、「言葉によるアプローチ」なのである。
問題提起 (3) 古いプレーブックから新たなプレーブックへ
残念ながら現代でもそこかしこに古いプレーブックの考え方は蔓延っており、この考えを基本にする限り、人は手順の奴隷に陥ってしまう。何か問題にぶつかったとき、「どうしてこの問題は起きたのか」「どうすれば問題を解決できるか」( 改善の思考 ) と考える前に、「この問題への対処マニュアルはどこか」と探し求めてしまう。そしてマニュアルがなければ、「手順が無いので私の仕事ではない」と判断することになる。( 自衛の思考 )
私たちが目指すべき状態は以下である。
・青ワーク( 思考 ) と赤ワーク ( 行動 ) の作業分担の垣根を無くし、誰もが両方を行うようにする。
・各人が青ワークと赤ワークの切り替えを適切に行えるようにする。
・上記を達成できるような環境を作り出す。
以降は、「この目標を達成するための言葉」ということにフォーカスし論を進める。
プレーブック改訂 (1) アラートを出やすくする言葉
ある人が問題を発見したとき、その人の以降の行動に大きな影響を与えるのは「時計のプレッシャー」である。とあるイベントの司会者は、イベントのフィナーレに差し掛かったところで、手元にある読むべき原稿が正しくないかもしれないことに気づいた。しかし「問題があるか確実には判断できない」、「間違っていても私の責任ではない (原稿を用意した人のミスである)」、そして「イベントを中断している時間はない」という思考に陥り、そのまま原稿を読み上げた。しかしてそれは致命的な問題であり、イベントは失敗してしまった。
ここで注目したいのは、司会者が「時計」に支配されてしまっていたということだ。「確認している時間はない」という状態は、誰にでも起こり得る。古いプレーブックには「おかしいと思ったら作業を中断して、確認の時間をとって良い」などという文言は記されていない。
従って私たちは、「時計を支配する」ということを意識しなければいけない。そしてこれは特にリーダーが意識するべきことである。なぜならば、リーダーがそのような環境を作り出さなければ、誰も「時計を支配」などできないからだ。
このためにリーダーができることは 4 つある。
(1) 中断を阻止するのではなく、中断できる環境を作る。
(2) 中断に名前をつける。
(3) 自ら中断する。
(4) 中断するタイミングを事前に決めておく。
(1) についてダメな言葉
・「少しの嵐で怯むなよ」
・「状況は悪いが今日もノルマをこなすぞ」
(1) について微妙な言葉
・「嵐が心配だな。何かあったら教えてくれ」
(1) について良い言葉
・「嵐が心配だな。12 時で継続可否を判断する。先駆けて 11 時で状況をヒアリングさせてくれ」
(2) について、中断名称の例
・「タイム」「ハンズオフ」「イエローカード」などを言える、挙げられる制度を作る。
(2) について、留意すること
・無用な中断をしてしまったことを批判しない。むしろ肯定的に迎える。
(3) について
・古いプレーブックにおいては、中断は責任を伴うのでハードルが高い。
・リーダーが率先して中断をすることで、中断して良いという文化を形成していく。
(4) について
・#1 ~ #3 は、「誰かが問題に気づいた」ことを前提としているので、誰も問題に気づかなった場合には効力を発揮しない。
・従って、強制的に中断するタイミングを設け、問題がないかを確認する機会を設ける。
プレーブック改訂 (2) 多様な考えを受容する言葉
古いプレーブックを抱えたまま表面だけ「合議制」を用いようとしたときにありがちなのが、リーダーが「私の意見はこうだが、みんなそれでいいか?」のような語法だ。これは合議の皮を被った強要である。このような場でバリエーションが、連携が生まれるわけもない。
強要ではなく連携を取るときには、主に以下のような方法が有効である。
(1) 合意を推し進めず、異論を歓迎する
(2) 指示ではなく情報を与える
(1) について
・あえてリーダーが異論を持ち込むと、メンバーが異論を発言する心理的ハードルが下がる。
・反論を持ち出したメンバーに対して「もっと詳しく聞かせてくれ」という姿勢を示すと、反論の価値を高められる。
・沈黙している人は往々にしてみんなと違う意見を抱えていることが多いので、語る機会を回してみる。
(2) について
・行動を命令するのではなく、行動がもたらす結果を伝えて、どうするかを本人に選ばせる。
プレーブック改訂 (3) 責任感を涵養する言葉
古いプレーブックでは、「強要」された「指示」が上から降りてくる。このときワーカーの中に生まれるのは「責任感」ではなく「服従」の気持ちである。服従のまま、赤ワークと青ワークの境界の垣根を取り払うことはできない。しかしこれを「責任感」に転換できたならば話は変わる。青ワーカー (思考する人) が責任感を持てば、決断するだけでなく自ら行動するに至り、赤ワーカー (作業する人) が責任感を持てば、作業するだけではなく改善を試行するようになる。
しかし責任感は個々人の内側からしか生まれない。「責任感をもて」と言ってどうにかなるものではない。( そもそれは対極の服従を促す )
ここでカギとなるのが、選択の有無だ。選択の自由がなければ責任感が生まれない。「イエス」と答えるしかない状況におかれれば、人は服従するしかない。
プレーブック改訂 (4) 区切りをつけ、工程を振り返るための言葉
産業革命期のプレーブックは、生産作業に最大限の時間を費やす目的で作られた。つまり、ラインが中断なしに動き続けるということだ。しかし現代でこの思想に則った場合、すぐに思いつくだけでも以下の弊害がある。
・進路変更がしにくくなる。
・社内の人間が犠牲になる。
・より良い活動の探索に集中できない。
今、イノベーションは急速にあらゆるところで起きている。全時代的な「続けられる限り続行」の精神ではなく、定期的に立ち止まり、区切りをつけることを意識しなければいけない。
区切りにおいて特に重要なのは労いである。この労いをしっかり行わないリーダーは実に多い。理由はいくつかあるが、例えば「労う時間を取ればその分作業時間が失われてしまう」などの考えが代表的だ。
しかし労いのない職場において労働者は、最低限の要件だけを満たそうとする傾向に陥りやすい。求められたこと以上のことをした人を労う文化は必要である。
区切りをつける上で、以下の考え方は特に有用である。
(1) 外からではなく、一体となって労う。
(2) 目的地ではなく工程に注目する。
(1) について、言動選択の考え方
・「素晴らしい」という言葉に強い力はない。こうした言葉は「外から」褒める労いの典型である。つまり褒めた当人が、「相手を認められる自分は優れている」というような心理的な報酬を得ることになってしまっている。
・相手に対する評価を交えず感謝を伝え、良し悪しを判断せず見たままを伝え、褒め称えるのではなく相手の行動を尊重すること、が重要である。
(1) について、言動例
・「君のチームはあらゆる部署と連携をとってくれたね」
・「資料を昨日までに作ってくれたんだな、ありがとう。おかげでプロジェクトが成功しそうだ」
(2) について、言動選択の考え方
・相手がとった行動について質問し、彼らの話にしっかりと耳を傾けるだけで、非常に大きな労いになる。
・目標をどうやって達成したかを語る機会を与えると、人はその達成を旅の通過点の一つと捉えるようになり、最終目的地だとは思わなくなる。( = バーンアウトしなくなる )
(2) について、言動例
・「あのアイディアはどうやって思いついたの?」
・「どんな障害があった?」
・「君がどうやってこのプロジェクトを完了させたのか、教えてくれ」
その他金言集
・「アンカリングバイアス」という現象がある。これは、人には「最初にえた情報を過剰に信頼して決断を下す傾向がある」というものである。例えば集団に向かって「数字を推測して発表するように」と告げれば、正解かどうかにかかわらず、最初に声をあげた人の回答に近い数字に推測が集中する。
・つまりアンカリングバイアスは、会議の場などにおいて意見のバリエーションを強力に抑止してしまう。規格外の意見は (意識的あるいは無意識的に) 排除され、対して違いのない選択肢がいくつか出て終わる。バリエーションを歓迎したいのであれば、自発的にアンカリングバイアスを避けるようにしなければいけない。
・チーム全体としてやらなくてはいけないことがこれだけあり、各自にどれだけパフォーマンスを期待しているかを伝え、外部からどれだけ期待を受けているか伝える。これは一見すると、情報が公開された透明性の高いコントロールのように見える。しかしこれだけの説明では、中断の声が挙げづらくなる、という弊害があることに気づかなければならない。
・「服従」は人々に考えることをやめさせる。思考や意思決定というプロセスから解放されるのだから、本質的にラクである。しかも責任まで回避できる。常に「言われた通りにやっただけです」と逃げることができるのだから。
・責任感は時として過熱状態に陥る。これに陥った人は、以下のような言葉を口にする。
「やり始めたのだから、絶対に最後までやる」
「無駄でもやるんだ」
「失敗という選択肢はない」
・労いの中に評価の言葉を交えてはいけない。例えば「素晴らしいリーダーシップ」という言葉には、コメントした人の主観に基づく評価が含まれている。継続性の観点から見たら、評価者の主観で評価される環境で、被評価者は今後何をすれば良いかわからなくなる。
・ドゥエック教授はとある実験で子供たちにパズルを解かせ、半分の子には「君はパズルが得意なんだね ( = 能力を褒める )」と声をかけ、もう半分の子には「一生懸命パズルを完成させたね ( = 努力を褒める)」と声をかけた。
その状態で、次に「もう少し難しいパズルに挑戦したい人はいるか」と呼び掛けたら、前者のグループの中で挑戦した子は半分に満たず、後者のグループでは 90 % 以上が難しいパズルを選んだ。
・以上の実験からドゥエック教授は、人を属性で褒めると、その属性は褒められた人のアイデンティティになりやすいと気づいた。そうしてアイデンティティの一部になると、その属性にそぐわない状況を避けるようになるのだ。
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