1場面物語 傘
そこは、雨だった。
僕は雨に濡れていた。
女は傘をさして立っていた。
雨が傘を伝って地面に落ちる。
女の周りで水が跳ねる。
「傘、入る?」
女は僕にそうたずねて来た。
僕はなぜあの時、断ったんだろう。
「いいえ、大丈夫です」
どうみたって、傘に入れてもらったほうが良さそうなほど濡れていた。
それでも、僕はできるだけ優しく、そう返した。
女は少しだけ目を見開いて、すぐに微笑んだ。
その顔には寂しさと嬉しさがあった気がした。
「あなたは…賢明ね」
そう言うと女は静かに消えていく。
それと同時に雨は上がり、空は青く鳥が鳴き出した。
*
そんな話を見舞いに来た友人に話した。
雨に打たれたのは本当で、あれから熱が出て僕は寝込んでしまった。
友人は、笑いながら僕の話を聴いたあとに
「そういや、これは親父様から聞いたんだけどよ」
と言って、話し始めた。
「蛇の目傘は、ほら、不幸から護ってくれるっていうだろ。それで、数ある傘の中には神様の蛇の目傘ってのがあるんだと。神の傘を持つ者は、神様に護られているんだ。そのかわり、傘の下からは出られない。傘の下でしてか護れない。そういうもんなんだとよ」
僕はあの日の女を思い出す。
困ったような顔をして、傘を握りしめ立っていた。消えてなくなったので、夢でも見たか、人ではなかろうものを見たと思って気味悪がっていたが、悪いモノでもなかったのかな……とまで思って、ふと疑問が湧く。
僕は友人に、あの日女がさしていたのが蛇の目の傘だと話しただろうか?
それに、この友人は………僕の……友?人?
ニヤリと笑った顔と目があった。
「おっと、いけねぇ。気づかれた」
そういうが早いが、友人と思っていたモノはヒュルりと煙になって消えた。
『あいつに悪気はねぇってことよ』
微かな風のように、そんな言葉が耳元を掠める。
いつの間にか空いていた窓の外は、柔らかな光に満ちていた。
koedananafusiのあとがき的な謎文書。
傘は好きですか?
私は好き。
蛇は好きですか?
私は好き。
雨は好きですか?
私は好き。
でもね、どうせなら、好きなものは遠く遠く、晴れの下で笑っていてほしいもの。
そういうものでしょう?
彼女はそう想うから。
一時の雨の間なら入ってられても、神様の傘はとじたりしないと思うから、それは無理ってなるの当たり前だと思う。
それもまた仕方なのないこと。
わかっていても寂し嬉しい混ざり合うもの。
傘をさすってことは護るってことだよ。
でもね、護る範囲がとても狭まる。
傘の外までは護れない。
それがどういう事かわかる?
雨を全身に受け止めるタイプのモノには
こればかりはわからない。
そういう隔たりが彼女たちには染み込んでいる。
賢明な人達よ。
どうか傘の下から抜け出して、光を浴びに走っていくといい。
その背中がある限り、見送っていられるのだから。
ということらしいのです。
私はもう少し自己チューにぶん回して持ってるんだと感じるんですけどね。ま、効果は弱くとも同じです。
彼女は、私と違ってお淑やかなのよ。
通過地点の雨の人。
蛇の目の傘の下の話でした。
読んでくれて有難う。