シュークリームが足りなくてよかった
ツイテないと思った時ほど実は、
ツイテるのかもしれない。
3連休の最終日はアルバイトの面接だった。
働きたくない私は
ほとんどのやる気を家に置いてバスに乗った。
やる気を忘れてきたからか
はたまた元々の性格か、
面接場所を大いに間違え
道のり3分のところ、20分以上歩く羽目となった。
まぁ、私の人生にとっては、ありがちなこと。
とはいえ早めに到着するバスだったので
(そのバスしかなかった)
面接会開始5分ほど前には到着した。
"余裕綽綽"で会場入り。
机にはアンケート用紙が置いてあった。
勤務希望日数とか、通勤時間はどれくらい?とか、
中には
次の4つの中でどの仕事がしたいか順番をつけろ、
とかいうのもあって
思ったよりサクサク進まない。
鉛筆で記入を進めていると、
人の良さそうな中年男性が前で話し始める。
「え〜、
開始までまだ時間がありますから、雑談ですが…
この間沖縄へ買付けに行ってきた時のこと、
紹介しますね。これが〇〇〇で…」
なかなか出世してそうなおじさまだけど、
瞬きの多さと落ち着かない足元から緊張が見て取れる。
時折はにかみ笑顔を見せながら話すので、
これから天秤にかけられる身の程も忘れて、
応援したくなった。
あまり聞いてる人もいなさそうだったので、
聞いてあげなきゃという気になって(どの立場)
ペンを止めて話を聞くこと5分…
「そろそろ時間ですね。
アンケートは全員出しましたね。」と、
突然の締めくくり。
ドキッ。
わたし、一生懸命あなたの話聞いてたから、
全然ススンデナイヨ。
「まだ終わってない方いますか?」の次の問いかけに
そ〜っと小さく手をあげた。
もちろん私だけ。急に居心地が悪くなってきた。
人の良さそうな男性は困ったようにアハハと笑った。
「書き終わるまでもう少し、待ってましょうかね。
もう少し話してますので、書いてください。」
嗚呼ごめんなさい。
話を聞いてる場合じゃなかったのね。
時間を潰してくれてたんだ。
どうしてそんなことも気づかなかったのかしら。
頭の中は一気にパニック。
先程までの余裕綽々はどこへやら。
苦し紛れに、
「説明会が終わったら、残ってアンケート終わらせます」と言ってみたけれど逆効果。
面接に必要ですので今書いてください、と
別の女性にピシャリと言われ更に恥ずかしい。
慌てて書き、それでも最後まで終わらず、
空欄をつくったまま提出した。
(取り上げられた、という表現の方が正しい)
そうして始まった説明会。
詳しい内容については伏せるけど、
一言でいうと、
ゼロだったやる気(道間違えたり怒られたりでもはやマイナス)が、40くらいまで上がった。
つまりは仕事が面白そうで、前半が終わる頃には
どこかワクワクしている自分がいた。
ところがどっこい。
勤務条件の話になると急に雲行きが怪しくなる。
これまた詳しいことは割愛するが、
シンプルに、ここで働けないと思った。
今のわたしには今のわたしの、望む働き方がある。
ハァ、せっかくここまで来たのになぁと思いながら
それでもさっきまで聞いていた面白そうな事業内容に
少しだけ後ろ髪をひかれていた。
そんなこんなで説明会が終わり、
適性検査の紙が配られた。
しっかりした作りで、折り目もない真っ新な用紙。
働く気もなくなった今、
この紙を汚し一部無駄にするのが勿体無く思った。
「もう帰ろう」
そう思い、
近くの女性を呼び、辞退する旨を伝えた。
しかし帰る気まんまんだった私の意思は虚しく、
「その点は割と融通がききます。
せっかくですので、受けるだけ受けて行ってください」
と優しく拒否。
本当に優しい笑顔だったので、
イラッとも、モヤッともしなかった。
素晴らしい伝え方だなぁ、といま改めて感心。
いやでも、このまま面接に行ったら、
更に気まずいことになる。
そう思い、軽い押し問答をはじめたところ、
「そこ、話さないで下さい!
質問がある場合は面接官へ聞いてください!」
とピシャリ。先程の恐い女性である。
ひぇ〜。ごめんなさい〜。
開始30分で2回も怒られた。こりゃ無理やわ。
なんかもう、
働く気もないし、雇われる気配もないし、
開き直ったわたしは大人しく最後まで居ることにした。
適性検査は、嘘なく、まっすぐ回答した。
「小さなことでイライラする」→Yes
「テキパキと進めることができる」→No
唯一高い点数を取れるとするなら
正直さ、だと思う。
適性検査を終え、面接の時間。
いつもは緊張しっぱなしだが、
なにせ、落ちることが決まっている面接。
人見知りのような緊張感はあったものの、
試験官を人間観察する余裕くらいはあった。
無表情で、淡々と進めるおじさまを見ながら、
「このおじさん、笑ったら案外優しい顔になりそうだなぁ。」なんて考えて、
勝手に好印象を抱いていた。
無事に面接も終わり、帰ってよしとの許可がでた。
靴を履いていると、見送りにきてくれたのは
先程2回も怒られたあの恐い女性。
靴を履きながら微妙な間があったので、
勇気をだしてお詫びすると、
「いいえ、いいえ」と笑ってくれた。
部屋の奥からは
「アハハ!いやどうもお疲れ様でした」と、あの人の良さそうな中年男性。
二人とも、とても優しい笑顔だった。
最後の最後で、
40くらいだったやる気が、75くらいまで上がった。
なんだか、穏やかな気持ちで外に出て、てくてく。
バスの時間までまだ30分ほどある。
そうだ、シュークリームを買って帰ろう、と
行ってみたかったケーキ屋に向かった。
この日午後から兄弟で集まる予定があった。
すっかり面接に癒されたわたしは気分良く、
兄弟全員分のシュークリームを
買ってってあげようと思ったのだ。
シュークリームを7人分。
ちょっと高いけど、みんなで食べよう。
お店に着くと、
ほぼ同着で男性のお客さんが入っていった。
その後につづいて店内に入った私の耳に聞こえたのは
「シュークリーム12個お願いします」の言葉。
嫌な予感がした。
ここは小さなケーキ屋である。
わたしはいよいよ
シュークリームが食べたくなった。
ほどなくして私の番が回ってきたが
願いも虚しく、残りのシュークリームは2つだった。
予定の7つには程遠い。
自分と旦那用に2つだけ買って帰ろうか。
そうすれば、安く済むし…。
だけど面接終わりの温かな気持ちが尾を引いていた。
「親兄弟にも食べさせてあげたい」と
結局、高いロールケーキを一つ買って帰った。
それと、味見用にシュークリームを一つ。
さっきまで履歴書が入っていた袋に、甘いロールケーキとシュークリームを入れて帰るのは、なかなか素敵な気持ちだった。
ちなみにお味は
圧倒的にロールケーキの勝利。
シュークリーム、足りなくてよかった。
後日、面接先の会社から電話。
悪目立ちが功を奏したのか、まさかの合格。
懸念点も解消でき、来月から働くこととなった。
少し楽しみ。
やる気80くらい。(100やないんかい)
あの日のわたしに言ってあげたい。
案外
ツイテないと思った時ほど、
実は、ツイテたりするかもよ
って。