歴史小説「Two of Us」第3章J‐2
~細川忠興父子&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第3章 本能寺の変以後~関ヶ原合戦の果て
(改訂版は日本語文のみ)
The Fatal Share for "Las abandonadas"
J-2
J‐2
次の間に控える、小笠原と齢(よわい)数えの6歳に成ったお長のもとへ、あなた珠子が、侍女清原マリアを従えて、入室して来た。
陽が差す前の薄暗い縁側には、あなたに帯同する侍女でマリアの叔母にあたる清原が、忠興の第2子嫡男忠隆を、紙風船であやしていた。
高槻の大名高山右近から贈られた、バテレンの土産の玩具である。
あなたは上座に背を向け、左側に正座するお長と斜め向かいに着座した。「かぁいらしいわぁ☆彡母上」
お長はおもわず、笑みをこぼした。あなたも目尻を下げて微笑む。
昨夜までの〈辻が花〉の重ね着付けとは打って変わり、今朝のあなたは藤色と白色のコントラストが映える〈矢がすり〉の着物。抜き襟も太い黒ビロードで、いつもの福良ハコ帯ではなく、一枚帯を丸帯留めで締めて、しかも羽織ものは召してはいなかった。
黒髪は、動き易いようにひとつに首元でしっかりと束ねている。
1つ1つの召し物は高品質ではあるが、どこからどう見ても、商家の町娘である。
「こないに早く、起こしてすみませぬね?」
声をかけるあなたを見上げ、娘であるお長は首を左右に振って、また笑顔を見せる。
「母の、出立いたすお支度が整いました。
かの地で毎日が落ち着きましたら、お長もいっしょに住まうよう、呼び寄せまする。
それまで、側用の者や清原のばあばさまの云うことをよく聞いて、忠隆と仲よう過ごすのですよ?」
「かしこまりました。母上」
「父上は戦場(いくさば)を転々としておられ、いつお城に戻られるやも知れませぬ。
このような世の中ですから、まだ幼い弟君も、父上より諱名を頂戴はいたしましたが、元服なさる頃には、どのような暮らし向きかも、思い及びは致しませぬ。
お長は私と、忠隆は父上と、生きて行くつもりで居てください。
必ず、生きて逢えることを願って止みませぬが、、、そのお覚悟で、今のうちに、忠隆と仲よう、暮らしてくださりませ」
「母上。承知いたしました」
お長は、まだおかっぱの前髪ながら、はらりと肩に黒髪が降りるまで、頭を下げた。
聴こえていたのか、存在を忘れないで欲しいのか、縁側の忠隆が背を向けたまま、
「あいわかった」
と、ひと呼吸遅れて返事した。
「まあ。父上そっくりなお返事ですこと」
あなたは嬉しそうに目を細めて、、、ぃぇ。
眼に焼き付けるかのように、縁側の忠隆の小さな背中を見つめた。
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