歴史小説「Two of Us」第3章J‐30
~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
(改訂版は日本語文のみ)
The Fatal Share for "Las abandonadas"
J-30 ~Team EAST vs Team WEST~
石田三成からの第1報。佐和山城より届いた書状を、あなたガラシャ珠子は受け取り、ひとしきり熟読した。
伝令からそのまま珠子に差し出した池田輝政は、珠子の一声を待つ。
「池田殿。これを池田殿も目をお通しくださりませ」
珠子に促された池田輝政も、しばし書状に眼を通す。傍には珠子の側近小笠原少斎のみ、控えていた。
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前略 珠子殿
忠興殿の不在の折、失礼とは存ずるが、
件の戦よりご帰還さるる前に
私共、三成への返答を 乞う。
単刀直入に申し上げる。
大坂城本丸へ 参られよ。
我が殿太閤秀吉様の 御遺志を受け、
私共は 戦なき世 皆が食うに困らぬ世に
平定すべく
和平のために統一を目指し候。
太閤殿の御遺志は 御嫡男秀頼公へと継ぎ、
唯々 その後見を務むる所存。
身に余る使命を受け 是が非でも
珠子殿のお力を お借りしたく候。
忠興殿は
そなた珠子殿の 知性や見識をも
囲いに束縛し
只々 女としてのそなたを愛しておられる。
苦しくはなかろうか。
共に生きる実感はござらぬのでは、と
私共ご案じ申し候。
キリシタンは 離縁は禁じておると、伺った。
そなたの生きた証は 細川に従うことなのか。
今一度 思案されるべし。
そなたが
さように間違いはござらぬと 仰せならば、
我が主の城の本丸へ 今一度
参られよ。
お連れになる御子息や侍従も
お選びくだされ。
そなただけではござらぬ。
他の大名政所も しかり。
まづは そなた珠子殿にお声をかけ候。
豊臣が
そなたの絆をお守りいたす故、
忠興殿に お力を借りられぬかと
伺ってはくださらぬか。
多勢の後見にて
豊臣を 支えて行くべし。
我が太閤は、そなたの父上の仇ではあったが、
かの件について 心憎しも
私共は理解する。
だがしかしされども、
私共は そなた珠子殿の敵ではござらぬ。
和平の世を願う故
私共の 味方に成ってはくださらぬか。
大坂城二の丸帰還に於いて
私共は待ち望む所存。
忠興殿を 説得しうるは
そなた珠子殿のみであろう。
繰り返すが吉報を 待つ。
石田三成
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なんとも複雑な表情で、書状から顔を上げた池田輝政。
忠興とあなた珠子よりも若く、伊達政宗と同じ年生まれのこの大名、偶然に〈サラ・デ・ヴィジタ〉【注1】に居合わせていた訳では、ない。
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