歴史小説「Two of Us」第4章 J-3
~Forward to【HINO-KUNI】country~
J-➂
「、、、やっと、辿り着きましたね。。。」
誰にともなく、あなた珠子は呟いた。
内海は凪いでいて、着物の裾が長めのあなた珠子でさえ、船から自力で舟着き場に降り立つことが出来た。眼の前、高台の崖の上には、小さな小さな天守閣の城が、建っていた。
瀬戸内の伊予灘は、丹後の荒波に比べたらとても穏やかだが、大坂の堺を出港してから、もう一度同じ曜日が巡っていた。
丹波の山間にひっそり暮らす生活から一変、小さくも簡素でもない貨物船に同乗して揺られている、七日間。
細かな島々や大きな半島、本土からは遥か離れたその先に在る、肥前や肥後より迎えに来てくれた、細川三斎(忠興)の、懐かしい家臣たち。
体調を壊し、途中上陸した因島では、漁師も引退した爺やと婆やが、海女(アマ)の獲って来たばかりの牡蠣(カキ)を焼いて、瀬戸内のスダチで食べ易く調理してくれた。
爺やと婆やに、いつか御礼の便りを届けたい。ホンマは生牡蠣が好きなんやけど、、、嬉しゅうござりました、有難き幸せでした、、、と。
明石の港では、何かしら言いつかり物を積んでいる間、同じ年頃の夫婦が、真蛸を捌いて酢の物を差し出してくれた。
その民家では、カボス果汁だけを絞った天然の酢の物を目の前で作りながら、どこから観ても町衆旅姿のあなた珠子に、同じ年くらいの婦人が気さくに話しかけてくれた。
「この柑橘カボスは、大友宗麟はんの城下町やったとこから、届いたんえ」
「豊後の国でしょうか❓私は今からそこへ向かうのです」
かつて読み聞かせしてもらったと云う『明石の上』の物語を、そらで覚えて語ってくれながら、明石名物の『いかなごの釘煮』を持たせてくれた。どこの誰とも知れない旅人のあなた珠子に、笑顔を向けた。
紫式部どのにも、紫の上と明石の上の友情を、あのように描ける出会いが、在ったのやろうか。。。
それぞれの生き方。それぞれの家族。それぞれの愛情や、ふれあい。そしてまた、私は夫であった忠興殿に呼び寄せられて、九州まで辿り着いた。。。
旧暦1600年8月の、あの大坂玉造細川屋敷の大火炎上から、8年の年月が流れていた。
ガラシャ珠子は、45歳になっていた。そして細川忠興も、三ケ月と経たずに45歳に成る。
杵築城の城代を兼ねている松井佐渡守康之が、あなた珠子に声をかける。
「珠子殿。しばらくの住処は、あちらに眺むる城でござりまする」
♪ ごんべぇさん ごんべぇさん どこ行ってん❔
堺を抜けて 海越えて 玄海有明 商いや
商いどこさ❔ 肥後さ
肥後どこさ❔ 熊本さ
熊本どこさ❔ センバさ
千羽山にはタヌキがおってさ
それを猟師がてっぽで打ってさ
煮ってさ 焼いてさ 擦ってさ
それを木の葉で ちょっと被せ~♬
ーーー to be continued.