歴史小説「Two of Us」第3章 J‐10
割引あり
~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
(改訂版は日本語文のみ)
The Fatal Share for "Las abandonadas"
J‐10 ~Conversation@観音峠~
裏庭では、薪割りをする小笠原少斉の横で、お長が店頭から見えないように遊んでいた。
母上であるあなた珠子の傍に寄って行く。
腰をかがめて、お長の目線に合わせると、あなたは伝言する。
「お長。イトがおうちに参りましたら、この結び文を『預かっておいてください』と伝えておくれね?」
「、、、わかりました」
栗ご飯の包みを手渡し、お長の〈四つ身〉の着物の合わせに結び文を差し込んで、くるっと背中向けにお長を向かせる。優しく背中をポンッと押して「お夕飯です。栗ご飯ね」
と、あなたは告げた。
お長が坂道を駆け出さんばかりに下って行く後姿を、あなた珠子はしばらく見送った。
まだ、陽光は斜めに射している。
眩しそうに見上げてから、あなた珠子は前掛けを結び直し、茶屋の厨房に戻った。
薪割りを済ませた小笠原が、あなたの傍に来て、呟く。
「御上洛ですかな、、、伊達の殿様も」
「かもしれませぬ。ですが、三河の殿様の動勢をお伝えくださりましたのでしょう。
羽柴様のご時世ですから、忠興殿も配下におりますれば細川家も安泰ではありますが、太閤様も老いの病床と伺っております。お世継ぎ様の件でも、政所様よりも淀の方が強気に誇ってらっしゃいますとか。
大坂に育ちましたイトが、土産話に語ってくれてますよ?」
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