
歴史小説「Two of Us」第3章J‐28
~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
(改訂版は日本語文のみ)
The Fatal Share for "Las abandonadas"
J-28 ~ An Invitation from A President ~
とても暑い、暑苦しい。
城外で待たせている騎馬隊や旗持ち槍隊など、総勢500名程の戦隊は、皆、炎天下野晒し状態で、待機を続けている。
とても寒い、寒々冷え込む。
漢陽都城の中まで引き連れた、30名足らずの少数精鋭隊は、大理石造りの大講堂中央で、立ち往生して待機を続けている。
眼が点だ。言葉が出て来ない。一体これはどういうことだ。。。

金銀財宝など、どうでも良い。
高麗から持ち出してしまえば、たいした価値のない物ばかりだ。その上、日本の武士には不必要だ。
暑いも寒いも感じない、細川忠興と伊達政宗。
眼前の棺桶のような石棺にみつけたのは、古代中国の書物。日本の和紙にも劣らぬ繊維の巻紙に、色あせた水墨の、達筆書。
これは、、、ひょっとして4世紀くらいの物だ。
「おい。これ見ろよ。
この書は〈宋〉の時代の中華国の皇帝の証ではないのか❓」
「おお!そうだ。
これは政治学者でもある書家、『王義之』(おうぎし)の書であるぞ」
「こんな物を、なんであの『宣祖』の奴が所持しておるのだ❓」
「わからん。わからんが、これは取引に使える」
「何の取引だ❔」
「清国との交渉にぞ」
「蒙古の〈女真族〉(にょしんぞく)との交渉か❔」
「いかにも」
「わしは、、、これが欲しい」
「えっ❓」
「わしの戦った褒美の品じゃ。宋国の皇帝の書じゃ」
「おい」
伊達政宗は、自分のものにしたくてたまらない。
細川忠興は、あまり物欲や宝物には関わりたがらない。傍に在った月琴の方に興味があるのだ。南蛮のギターの音色と漢民族の胡弓のような形状の楽器で、現代で云う所のヴィンテージ弦楽器なのだ。

フィギュア①
はるか対岸の日本では、大坂城へとついに参内せざるを得ない事態になっていた、細川ガラシャ珠子。
奥方のあなた珠子が、太閤秀吉の金箔茶室の密室で、丁々発止の刃物沙汰をこなしている同じ頃、若手闘将の夫忠興と盟友政宗は、政情が代わりつつある大陸にて、このような喧嘩沙汰を繰り広げていたのであった。
この「王義之の書」の発見をきっかけに、清国が制覇する勢いを煽ったのかは、日本史上では定かではない。
だが、後の江戸時代中期に、細川家から半分の書が伊達家に譲渡され今もなお、伊達家の家宝として保管されているのは、一次資料として確かなことである。
キリシタン大名たちが大義名分のもとに先陣で明国と戦い、国内平定が気がかりな大御所武将達が何の為に戦うのかやる気も沸かない事態で、ベンガルトラ退治など興じている時。
若手の精鋭武将2名は、まったく違う視点で、違う発想で、この局面を乗り切る展望に思索を馳せていた。
このような、けんか腰の取り合いをしながら。
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