青本柚紀

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    不定期的に俳句連作を出します

最近の記事

「分かれ道——フェミニズムとハンマーの共鳴性」(「現代詩手帖」2023年3月号)の注釈について

「現代詩手帖」2023年3月号のクリティーク、「分かれ道——フェミニズムとハンマーの共鳴性」について、註釈に書いたことを以前Twitter(https://twitter.com/izumiitsumiki/status/1630830664932286464?s=46&t=WW40BbnnaFBDVtAK97VfHQ)とマストドン(https://fedibird.com/@aomoto_y/109947229279217244)に投稿したのですが、ツイートやトゥートに書い

    • 攪乱の句の、その終わり

      「俳句四季」4月号の精鋭16句欄に連作「like a ghost」を寄稿しています。この連作は一言でいえば俳句との「歌のわかれ」、最後の俳句作品で、以後俳句を書くことも新しく俳句を公開することもしないつもりです(追記:今まで書いたものを作品集にまとめる心づもりはあります)。「like a ghost」は16行からなる同名の詩に16句が並置されている構成ですが、これは実験的な意図というよりは、定型律などへの違和感から、もはやそれだけで俳句を書くことが困難だったことによるものです

      • 2023-02-05(同性婚や性的少数者に対する首相と首相秘書官の発言について)

         ここ数日の公然とした性的少数者への差別に、ずっと、何か言いたい——というよりは、そのような発言を公然とすることを可能な価値観をできるかぎり深く抉ってやりたい——そう思っていた。一方で、自分の書き仕事についてずっと取り憑かれるように考えていて、そうするための言葉を十分に探ることができないでいた。昨日一昨日とそれらが自分の手を離れていき、ようやくそれができるようになった。  この最悪な「家族観や価値観、社会」が変わることに何の問題が?婚姻制度自体が排他的で問題の多い制度だけれ

        • 第六回芝不器男俳句新人賞予選通過作品

          君がため春野の薔薇にならずゐる だつた手が芹を掴んでゐた彼方 手のきのふ雨が霞を流しては あふれだす私語にぼんやり虻がゐる 紙焼けてほろほろと菜の花の群 のどぼとけひらく椿の唄の数 巣のくらさ蜂にときどき鳴る海が 書き言葉泪が花冷にわかる そよいでは鰭の四月を木と匂ふ 花弁して日の抜け落ちてゆく音の 風はむらさき肺の水位に根をさして 平熱の蜂が押しあふ木の空気 影は口花のかたちを引き寄せて 君晴れてをはりの春を藻が結ぶ ばらの花てのひらに電波がとど

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        • 俳句
          10本

        記事

          映画『トムボーイ』のふたつのクローゼット——クィアネスと枠組みの葛藤

           新宿シネマカリテでセリーヌ・シアマ『トムボーイ』を観た。こういうのはダサいかダサくないかで言えばダサいのだけれど、これは半分くらい自分の映画だ、と思った。そういう映画は「ある」のだ。キム・ボラ『はちどり』もそういう映画だった。  自分の映画だと思った作品なので個人的な話も挟まってくるのだけれど、以下、ネタバレを含む作品の話を。  ひとまず、公式サイトよりあらすじを引く。(スクリーンショットで失礼)  短髪にタンクトップとショートパンツという〈少年〉のような出で立ちのロ

          映画『トムボーイ』のふたつのクローゼット——クィアネスと枠組みの葛藤

          漂流のメメント・モリ

          砂浜は火葬の途中だった 水はまぐわって光を拒んでいる かなしみで舟をつくろう 鳥は三行であなたを連れてゆく それからは馬と隠喩を走り出す日々 ——戴冠、戴冠 バス停をいくつもの日曜が過ぎた (ゆびさきが混濁する) 河は炎の色が聴こえている (時間に重石を載せてゆくのだ) 家並みが白い梯子にかわるころ 喉だけが嗚咽のかたちになって 身投げの夏に溶けだしてゆく 「現代詩手帖」2021年8月号新人作品投稿の選外佳作の作品です

          漂流のメメント・モリ

          遠い眼で見えている

          滲みだす風にすべての耳をひらく 影は花口のかたちを引き寄せて 肉の根を裏返すなら声は虹 ○ 色のうみ泪が鳥を変わるまで 火になろう疵の模様が見えているから ○ 砂で編む日々へわたしをいなくなる 眼のうつわ夏は光を雪に変え ※この連作は長谷川白紙1stワンマンライブ『ニュー園 ショーケース』および氏の楽曲の影響から書かれたものです

          遠い眼で見えている

          BANANA FISH

          電話その枯れる時間がおほきい目 さざなみの靄が繁れば暮れる手の ○ 潜水は夏に速度の幻視痛 雷雨のあなた魚から灰になり ○ 現身の巻かれて虹に手を離す 声は水 渡る鏡を昏くなる ○ 光年の弾に崩れて次の火へ

          白濁の窓から

          そよいでは鰭の四月を木と匂ふ 階段に空気を点し蜂の輪は     ○ 街だった手紙つづける眼をずっと 歌が野となる記憶から匣が建ち 名の海は遠いわたしを噴水し     ○ 垂れて木は郵便的にうつくしい     ○ 風化する玻璃の季節を手がとほり

          白濁の窓から

          骨と歌

          目に雲のめぐるあなたを野に遊ぶ 風はむらさき肺の水位に根をさして      ○ 花弁して日の抜け落ちてゆく音の      ○ 降るのは礫(れき)  月日の皮膚を感光し 藻の瞼その電葬のあなたたち      ○ 喝采を傘の四月を火に閉じる

          吹きもどる文字盤

          光沢の二月の奥を雪の窓 風の木のながれて春は飴色に 目には水銀川に実れば鱗族の 玻璃の托卵春を十三年まはり 糸車花の終はりを藍が掃き    ◯ 巻きもどる雨はひかりの鱒を出し 風切の手を裏返し春をまた 蜜蜂よ草むらは揺れながら火で 虹は球体もとの魚の晴れとなり    ◯ ゆめぎはのけばだつ湖をとほく犀    ◯ 繭は夜をつなぎあはせて花だつた ************* 縦書き版はこちらにあります http://poecri.net/ItemDetails.p

          吹きもどる文字盤

          ふくらむ鳥の境界

          眼のなかへ入れて鶫の絵がひろがる 日々は泡鶉を沐浴に棲ませ 注がれて午は庭木に路をこぼす 回廊に椋鳥を育てて暗いまま 忌の誰か僕を呼ばせて枯れてゆく    ◯ 手には朱欒天動説の木を並べ ひあたりに鴨ゐて水の戸をひらく 貝塚になびく南をみやこどり 照る鶴が雨のとどめを走りだす    ◯ 雪になる雨木は葉のなかで影を得て 冬を去る日々を落として湾は灯の 赤坂の十六月は木がきれい    ◯ 耳飾りかもめは音のない河を ************* 縦書き版はこちらに

          ふくらむ鳥の境界

          かすれる家の光

          然りながら蚊帳はうつろの牯嶺街 雨に名は流れ青葉に鳥がゐる 夏炉からおよぶ景色を銅の錆 白磁から垂れてみなみのゆめは実を    ◯ 花はひなげし欠けてもねぢ巻きの海が 青鷺に晴れて胡椒の彩の脚 さめ肌に白夜のとほいいきれる木 緒の浜へなかばの書架が流れつく    ◯ 唐衣西瓜の頃を川に棲み 喪のをはり萩は空音をつぎながら 目が月をとほして葉がくれの生家 ************* 縦書き版はこちらにあります http://poecri.net/ItemDetail

          かすれる家の光

          ひきのばされた春の眠り

              花はほんたう畝に子供があたらしい 街は船出して二月は梅が湧き 春はどこかの貝とけだしてゐるゑくぼ 伸びて日脚のひかりの塵が降る森は あふれだす私語にぼんやり虻がゐる    ◯ あなた硝煙そして柳が吹き散らす 胸ずつと抱へられては春も薔薇 手が木々に蕾を灯しわすれ霜 星に水あれあざみ野にひびく鈴 巣のくらさ蜂にときどき鳴る海が だつた手が芹を掴んでゐた彼方    ◯ 変速機影は椿で濃いわれら 花めいて頁に川の長い午 ゆふがたの垂れて街路は硝子の巣 書きことば泪

          ひきのばされた春の眠り

          Composition 1

           電気を消した部屋はものの境目があいまいで落ち着くし、さみしい。ベッドの上を動けなくなって三日ほど経っただろうか。シーツがすこし脂をふくんでいるのがわかる。なにも食べる気がしないなか、同じことばかりもうろうと考えている。どうして二十年も生きてしまったのだろう。いったい、なんのために?  テレビ白夜をむなしく流し泣きぼくろ  五月。白山通りを水道橋へ歩くと、東京ドームを過ぎたあたりで店の並びが変わっている。風景として見ていたそれは、取り壊されれば何があったのかわからなくなる

          Composition 1

          顔のない双子

          照井翠『龍宮』(2013.7角川書店)が刊行されてから、一卵性双生児の一人としてその中の句に衝撃を受けてから、五年になる。  双子なら同じ死顔桃の花  照井翠 「ウラハイ」の2013年3月11日の「月曜日の一句」で相子智恵はこの句を以下のように読んでいる。  発表当時も話題になった句だ。むごい事実でありながら〈桃の花〉の安ら  かさを同時に見る作者。桃の花の咲き乱れる天上で、安らかであってほし  いと願う心。その「かろうじての正気」を保った虚実の混じった句を、二  年後

          顔のない双子