悪友「丸サ進行」との付き合い方 【本人によるPenthouse新曲「一難」楽曲解説 】
僕は丸サ進行が嫌いです。
誰しもあると思います、「みんな好きだけど、俺はそんなだな」みたいなやつが。僕の場合は丸サ進行とチャーハンがそれです。
チャーハンは流石にご存知かと思いますが、「丸サ進行」の方はみなさん知ってますでしょうか?その名の通り丸の内サディスティックで使われているコード進行です。
ピンとこない人はこちら聴いてみてください。
どうですか?好きですか?
僕の認識では、みんな割と好きなはずです。
おしゃれ、大人な感じ、切ない、エモい、言い方は色々ですが、そういう意味で非常にキャッチーですよね。
ただ冒頭で述べたとおりで、僕はあんまり好きじゃない。
いや、まあ、ある程度好きだけど、なんか好きとか言いたくない。そういう歯切れの悪さがある。
あまりにコード進行にパワーがありすぎて、お手軽にいい感じの曲が出来上がるし、その分音楽の機微が損なわれてしまう感じがあるし、なんというか、これに甘えてはいけないみたいなプライドがあるのだ。
一方、SNSでは困ったことに、日夜この進行の曲がバズり散らかしている。
Ⅲという定番エモコードが、2つ目という早さで訪れるという構造が、縦動画における離脱防止にかなり効いていると思うし、テンポのある曲に合うのでダンスとも相性がいい。
そしてこの進行が持つ、心地よい背伸び感も功を奏して、近年では以前に増して人気になっていると思う。(この前、某アーティストのライブを観たときマジで全曲この進行で本当に驚いた。そんなのアリかよ。)
僕自身、バズりやすいフォーマットに安易に乗ることに抵抗がないわけではないが(むしろ逆張りばかりしている節もある)、音楽を作る仕事をしている以上、"みんな"が聞きたいものを作るというのは重要な要素の一つだ。
幼少期からずっと好きだったハードロックバンドから転身して始めたPenthouseとかいうバンドは「みんなに聴いてもらえること」がテーマでもある。そういう意味も込めて、Penthouseでは定期的にこの進行にチャレンジしてきた。
その上で、僕がこの進行で曲を作る際必ず意識しているのは「進行に負けないメロディを作る」こと。
丸サ進行の持つ魔力の中で、メロディが一際輝くような曲を作ることができなくては、それはもう進行に曲を書かされているといってもいい。
そんな思いで今回リリースしたPenthouseの新曲「一難」。
強いメロディに悩み、丸サ進行をあれこれいじりながら悪戦苦闘した果てに完成したこの曲の解説を、ここからしていこうと思う。
・解説に入る前に
前回の記事、音楽をやっていない人にはだいぶわかりづらかったと思うので、こういう前提を理解すると多少読みやすくなるかも、みたいなのを一応書いておきます。わかってる人は読み飛ばしてください。
・曲にはキーという、基準になる音があります。(曲中でキーが変わる事を転調という)
・基本的にはキーとなる音をドと捉えた時のドレミファソラシドを使って曲が作られます。
・ドレミファソラシドだと、実音と区別がつきづらいので、キーの音をⅠ度とし、数字(ディグリー)で音やコードを呼ぶことがあります。
・例えばキーがD(レ)なら、
1度(Ⅰ)はD(レ)、2度(Ⅱ)はミ、3度はファ♯
キーがG(ソ)なら
1度はG(ソ)、2度はA(ラ)、3度はB(シ)
みたいな具合です。
・例えばⅥm7(9)はそのキーの6度の音をルート音(コードの重心となる音)としたマイナーコードで、基礎となる1、3、5度の他にルートから見て7番目の音と9番目の音がおかずとして一緒に鳴ってる乗ってるよ、みたいな話。
では早速やっていこう。ぜひ、一難を手元で再生しながら読んでみてね。
頭サビ
丸サ進行の最大の強みは、先にも述べた通り、早い段階でエモさを提示できることだと僕は考える。
この大SNS・サブスク時代において、スワイプされる前にいかに曲を聞く気にさせるかが大事、というのはもはや言い古されてすらいる。
その点、一難の曲入りは①丸サ進行の力と、②イントロ無し歌入り、それに加え③ツインボーカルと、盛りに盛っている。なんとしてでも聴く気にさせるぞという強い気概が伺える作りだ。
ところで僕はサビのメロディ(+コード)の案出しを日課にしている。
結果、それなりに良い感じの丸サ進行のサビのアイディアというのはおそらく50案くらいストックがある。今回のサビ「一難去ってまた一難」のメロディはその50案の中でトーナメントを勝ち抜き優勝したので曲になっているわけだが、この頭サビのメロディも実はその50案の中でベスト4に入るくらいのものだった。
どうせ毎日サビ案を作っていくのだから、出し惜しみはしないというのが僕のモットーでもある。元々サビのつもりで作ったメロディではあるが、もったいぶらずド頭で採用した。
・メロディ構造について
「終わらせないで」のメロディが柱となるモチーフだ。
後ろで出てくる「キリキリマイで」、「月の光を」は、その柱と全く同じメロディ。その間をあの手この手で埋めていくスタイルでメロディが構築されている。
「トロイメ」と「踊り明」は、同じ符割で音程の上下も揃えて、単調にも突飛にもなりすぎないようにした。
折り返して、「月の光を」以降は展開していきたいイメージがあったので、「光を」のメロディを拾って、同じ符割・メロディ上下で「掴んだら」で上の音域に流していき、「逆上がり」で山場を作っている。
(この「逆上」のシドシ〜みたいな半音の動きはエモいという話も良く耳にするやつではある。)
「逆上がり」の山場の後はどう締めるかというところ。
ここまではナチュラル系スケールで来ているので(ドレミファソラシ、どれもつかっているという意味)、やや雰囲気を変えみんな大好きペンタトニックスケール(ドレミソラ)で、印象的なメロディにした。
Inter
↑Inter(0:16)から再生できます
Interはホーンセクションが華々しく入って、曲の雰囲気が見える場面。
全体としてラテンを基調とした曲にしたかったので、ここで思いっきりその方向に寄せるアレンジにし、聴く側にも「こういう雰囲気ね」と思ってもらるようにした。
ホーンのフレーズは、頭サビの「終わらせないでトロイメライ」のメロディを踏襲しつつも、符割は大きく変えてビートの推進力を損なわないように体裁を整えてある。
メロディの展開の仕方で言えば、頭サビで「トロイメライ」に当たるメロディ(ソファミレミ)を拾って、違うメロディに発展させていき、頭サビとは違う流れでAメロに繋いだ。
1A
↑Aメロ(0:23)から再生できます。
一見妙なコード進行だが、実はこれも丸サ進行みたいなもの。下記ちょい難しいかもなので、読み飛ばすのも一興です。
要は丸サ進行をいじって雰囲気変えましたよ、という話。
ここまで頭サビ・イントロと、味の濃い進行と歌唱・アレンジで来ていたので、一旦落ち着ける意味でも、丸サ進行の雰囲気を受け継ぎながらもやや浮遊感のある進行にした。
メロディ
メロディ構成としては、ほぼ単純な繰り返し。
この後B、サビと派手で複雑めなメロディが続くこともあり、ここではシンプルさを重要視した。ミドレラのペンタトニックのフレーズでほとんどを構成しながら、符割を維持しつつところどころで変化をつけている。
ちなみにこのメロディも別のサビ案の一つだ。今回は特別に(本当に特別に)そのデモも聞けるようにしておく。
1B
Aメロではハーフで刻んでいたドラムが、Bメロから復帰してやや賑やかさを感じるBメロ。
余談だが、某なんちゃらビート振興会なるアカウントの活動のせいで、バックビートとかいう言葉が一人歩きし、2拍目と4拍目にスネアが入ってないと「バックビートがない!」みたいなわけわからんコメントをもらうようになってしまった。この面白現象を実際に見たい方はこちらの動画のコメント欄がおすすめ。
話が逸れてしまったが、Bメロ。コード進行はシンプル丸サ進行に戻る。
ちなみに当曲の丸サ進行は、基本2週目の終わりがⅥ7系になっているのも、僕なりに一応工夫してますよという感じを醸し出している。
3週目からはサブドミナントマイナーを絡めたクリシェで期待感を高めて、サビに向かう流れ。
メロディ
メロディも「怖いほど脳汁ぶっ放して」のように16分で言葉数多く、撥音(っ)と無声音(し)でドラムのビートに寄り添わせている。
ただあくまでここも、頭3つの「怖いほど脳汁ぶ」「Run & Gunで飛ば」「"Isn't that enough?"」は同符割で言葉数が多くなっても全体のまとまりを失わないようにしている。
続く「黙ってお呼びでない」も同様に「だま」「てお」「よび」「でない」はそれぞれ符割を揃えている。
「知らないよ 未来も 見ないよう 機内モード」はクリシェ進行の持つ停滞感に寄り添って、メロディも同じものの繰り返しになっている。ここの溜めがサビの開放感につながっているはず。
「Don't you worry 'bout a thing」はサビ前の決めとなるフレーズなので、メロディは動きが大きく派手なものに。Aメロのペンタで跳躍の多いメロディを拾っているので、唐突すぎる感じもないと思う。
次はお待ちかね(?)のサビだが、例によってここから先は有料とさせていただきたい。もちろん、Penthouseのファンクラブ「Pentclub」に加入いただいている方はそちらでフルで読めるので、そちらで読んでほしい。
前回の解説(https://note.com/namiokashintaro/n/n49a4f0193d2f)で味をしめたのかと思っている人も多いかもしれないが、前回の収益は思ったほど伸びなかった(時給で言うと1400円くらい)ので、しめるほどの味はしなかったということだけここで言っておきたい。
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