底つき感 #創作大賞 2023
生きていると、毎日毎日、苦々しいことや憎々しいことばかりでウンザリンコだよね。
オイラは一日の終わりにその日の気持ちを、手帳に「苦」とか「痛」と漢字1文字で書くんだけど、このまえ昔の手帳を見返していて何となくその漢字をつなげてみたら「痛悲叩蹴撃撃消」となって、それが「痛い悲しい叩くぞ蹴ったくるぞ撃つぞホントに撃つぞ、そして消すだがね」と読めて、ちょっと自分の中にある闇を感じた。
上司からの無理難題。お客様からの無理難題。双方からのプ列車(プレッシャー?)で人と接するのが恐くなっていたあの頃。
「みんな自分の利益のために都合よく人を操りたいだけなんだ」などと、頭らへんでは間違いだと分かっているのに、彼らへの嫌悪感を消すことができなくなっていた。頭痛が治まらず生きる気力がなくなっていく・・・。
そのときオイラは、初めて「どん底」という言葉を意識した。
「これが『どん底』ってヤツか・・・」
そうつぶやいてふ~っと溜息をつくと、暗くなった部屋でひとり、酒を流しこんだ、つもりでお茶をすすった。
ズズーッ。
あれから月日が流れ、おかげ様で今はどん底からゆるやかに脱しつつある。だが、あの頃の自分を思い出すと苦々しい気持ちになる。「どうして自分だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」とか、「あいつら、絶対に許さんけんね!」と、怒りをぶつけることでしかどん底に対処できなかったからだ。
・・・あの頃はぁ、オレ、未熟だったよ(遠い目)。
どん底の全体像も知らないくせに「どん底なんて嫌じゃあ!」と、どん底を毛嫌いして・・・。
あたり前の話。世の中には大小深浅さまざまなどん底があふれている。自分だけがどん底で苦しんでいる訳ではない。多くの人がどん底で苦しみながらも、そこ(底)から抜け出せるよう必死にもがいている。だが、早く抜け出せる人と抜け出せない人がいる。その違いは何なのか? それは「どん底をどう認識しているか」ということではないだろうか。どん底から抜け出せる人は、おそらくどん底をどん底だと認識してないの(欽ちゃんが入っちゃった)。だから打たれ強いの。
では、私たち一般人でもどん底をどん底と認識せずに済むようになるにはどうすればいいのか? オイラなりに導き出した最新のアイデアを、あの頃の自分と、今この原稿を読んで頭を抱えているみなさん、そして、おそらくこれからどん底を経験することになるであろう小学生のみなさんに向けてお話ししたい。
〔 方法1 〕
まず、「ドンゾコ」という響きが良くないので修正する。濁音の響きがどん底の印象を重たいものにして、底から脱出するには相当なエネルギーが必要だと思わせてしまうからだ。
具体的には、「どん」の響きが何かにぶつかるときの「ドン」と同じ響きなので、濁点を取って「トン底」にする。すると、足がどん底の「底」に着地したときの衝撃がかなり抑えられるはずだ。
また、頭から着地した場合を想定して「コン底」も用意したので、各自、状況に応じて使い分けるまし。どちらを使ってもちゃんと衝撃が軽くなったように感じられるはずだ。
[ レベル3:トン底・コン底 ]
(注:「ドン底」を「レベル4」としたときのレベル)
しかしながら、「コン」「トン」では着地したまま地面に留まっているような響きに思えるので、さらに「ポン底」に変えてみよう。すると、何ということでしょう! いったん地面には落ちたものの跳ね返って少し飛び上がっているような印象に。
[ レベル2:ポン底 ]
しかししかし、「ポン」ではまだ地面から跳ね返る高さが低そうな響きに思えるので、さらにさらに「ピョン底」に変えてみる。すると、今度は地面に落ちて跳ね返ったあと「ポン底」のときよりかなり高く飛び上がっているような印象だ。わ~~~い。
[ レベル1:ピョン底 ]
ちなみに、記載したレベル表記は数が減るごとに、どん底の水深および転落者が負う傷の深さが浅くなっているので、自分のどん底レベルを音響的に把握したい場合や、復帰に要する期間を推定したい場合に参照されたし。
上記の手法はただの苗字チェンジである。しかし、ただ「ドン」を「コン・トン・ポン・ピョン」に変えただけで、「なんか別の底にいるみたい ♡」な気分を喚起させることに成功している。これが「改名エフェクト(効果)」である。
人間の判断はイメージに影響されるものである。受難の日々を「どん底」だと思いながら過ごすより「ピョン底」だと思いながら過ごしたほうが、「私はまた飛べる」という上向きな気持ちになれる可能性は高くなるだろう。
言葉には霊がくっついてますからね~、ハイ~。
さて、ここからは〔 方法1 〕よりも少しだけ自由にトランスフォーム(変形)した「どん底」たちを紹介していこう。
1.ノン底
底にいることを強く否定したい場合に用いる。
2.ドンゾ湖
底にいることを知らばっくれたい場合に用いる。
3.ON 底
今まさに「底にいるのだ」と冷静に受け止めたい場合に用いる。
4.どう? 底
底にいる気分を確かめたい場合に用いる。
5.どんぞ子
「我こそがどん底の申し子である」と開き直りたい場合に用いる。
6.てい!
底を勢いだけで抜け出したい場合に用いる。
7.どん底さん
敬称をつけてどん底におもねりたい場合に用いる。
変更も自由。「ちゃん」でも「リン」でも「シャン」でも、好きにしておくれやす(オイラは「野郎」推し)。
ここで、〔 方法1 〕を考えている最中に気がついた重要な発見について報告したい。
実は、レベル4「ドン底」の上にまだレベル5の「底」があったのだ。それが「ドーン底」である。この底については人命に関する内容ということもあり、お話しすることをパケラッタ・・・あ、ためらったのだが、「うちのヘッポコ文章でも、命を守るための啓蒙をしてみるのだっちゃ!」と考え直し、あえてお話しすることにした。
それでは説明しよう。
「ドーン底」とは、レベル4「ドン底」の「ド」と「ン」の間に「ー」(音引《おんびき》)が入ったものである。音引が入って響きが何かに激しく衝突したときの「ドーン」と同じになったため、転落者はおそらく致死的な状態だと思われる。つまり蘇生できる可能性が非常に低い。
一方、レベル4「ドン底」の転落者にはまだ意識がある。したがって蘇生できる可能性は残っていると考えられる。つまり、君が「どん底にいる」と認識しているならば、君は「まだ終わっていない」ということなのである。
・・・だから君には、その底がまだ「ドーン底」ではないということを、どうか忘れないでいてほしい。
ところで、ここまで主に「どん底」の「底」を細分化し、あらたな名称を与えることで、どん底をどん底と認識せずに済むようになるかもしれない方法を述べてきたわけだが、ここからはまた別の方法を紹介していきたい。
〔 方法2 〕
曲の歌詞をイジることでどん底感を和らげる。
例)鈴木雅之『違う、そうじゃない』
違う 違う そうじゃ そうじゃない ♪
⇒ 違う 違う そこは 底じゃない ♪
このように歌ってみると、みるみるどん底感が薄れていくのが分かるだろう。もしも効果がイマイチだと感じるなら、ブリッジ(間奏)からの大サビ「♪ 違う 違う 違う 違う そうじゃない」の所で歌ってみよう。『もう涙はいらない』と決心がつくこと請け合いだ。
この手法はただの説得である。しかし、ただの説得を軽快なリズムとキレのあるメロディーに乗せただけで、「なんかここがそこ(底?)じゃなさそう・・・」な気分を喚起させることに成功している。こういうのをこども騙しと言う。だが、リズムとメロディーが説得力の無さを補うこともあるのだということを示す好例でもある。
〔 方法3 〕
ギャグのフレーズを部分的にイジることで、どん底感を和らげる。
例)IKKO『どんだけ~』
どんだけ~ ♪(人差し指を振りながら)
⇒ どんぞこ~ ♪(足元に向けて人差し指を振りながら)
このようにパフォーマンスしてみると、あれよあれよという間にどん底感が薄れていくのが分かるだろう。もしも効果がイマイチだと感じるなら、いったん落ち着いて別のフレーズ「まぼろし~ ♪」を挟んでやり直そう。イマイチな気分が帳消しになること請け合いだ(じゃあ「ピョン底」とか要らなかったんじゃ・・・)。
この手法もただの自虐である。しかし、ただの自虐を単純なリズムと簡潔なメロディー、そして簡単な振付に合わせただけで、「他人にどう思われるかなんてどうでもいい」みたいな気分を喚起させることに成功している。こういうのはこども魂と言う(supported by こども騙し)。そして、こちらもリズムとメロディーと振付が「陰気な自虐」を「陽気な自虐」に反転させることがあるのだということを示す好例である。
以上で、『ナミオ=マッキンゼー流「どん底」脱出戦略』の紹介を終わる。
小学生のみなさんも夏休みの間に、一度「どん底からの脱出法」を考えてみないかい? あいにく、おじさんは相談には乗れないけど。・・・どうしてかって? 仕事の合間にこの原稿を一生懸命つくっていたら、夢中になりすぎて大切なお仕事を1個すっ飛ばしちゃったからさ(テヘッ)。
それはともかく、おじさんは今日お話を聞いてくれたみんなの中から、いつか誰かが、氷川きよしの『きよしのズンドコ節』を、逆境にいる人たちの心をそっと温めてくれるような『Kiina のドンゾコ節』に底上げしてくれると、心底、信じてるよ(あッ!)。
シンソコ・・・
また新しい・・・
底・・・
Ⓒ2023 Namio Kotori
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