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そぞろ三景

 何か隠し事をしているような、率直でない物言いを聞いたときに、よく「奥歯に物が挟まったような言い方」などと言ったりするが、先日ふいに、世間に広まりそうもない、この慣用句の新しい類語がひらめいてしまったので、今回はその〈しょーもない類語〉をここに披露することで成仏してもらおうと書き進める次第である。南~無~。

 その類語は「奥歯に物が・・・」同様、問いかけに対して相手から歯切れよく答えてもらえなかったときに使うのだが、「奥歯に物が・・・」を使うときとは、相手の様子が「何だか気もそぞろだなぁ」と感じたときに使うという点のみ異なっている。ただ、違いはそれだけなので「奥歯に物が・・・」同様、商談やデートなど1対1の会話場面でも使うことができるし、もちろん1対100のプレゼン場面でも使うことができるようになっている。その点は「気遣いのナミオちゃん」だ、安心してくれたまえ。
 では、その〈しょーもない類語〉のお披露目と行こう。
 
 ザン! 「お尻にパンツが食い込んでるような言い方」(パチパチパチ~)

 いかがだろう? こちらの問いかけに対して相手が率直に答えてないな、気もそぞろだなと感じたら、「お尻にパンツが食い込んでるような言い方するなよ~」などと使うのである。こちらのほうがゼッタイに「奥歯にMONO(消しゴム?)が・・・」よりも、因果関係的にふさわしいと思うのだが。
 というのも、だいたい奥歯にMONOが挟まっていても普段通りしゃべれることぐらい、社会人なら百も周知(承知?)のはずだ。八歩ゆずって(少ねぇなぁ)奥歯に挟まったMONOが気になるとしよう。でも、それよりお尻にパンツが食い込んでいることのほうが、貴女《あなた》は・・・そして貴男《たかお?》は・・・気になるし、気もそぞろになるだろ? だってヒトのお尻はそう感じるようにできてるんだもん⁉ 
 だから無記名アンケートでもすれば、従来からの「奥歯にNOMO(ピッチャー?)・・・」スタイルより、新しい「お尻にパンツ・・・」スタイルのほうが支持を集めると思う。

 この新しい類語は、街でよく見かける「あれッ、パンツが食い込んでる」と言いながら下着を定位置に戻す人の様子もヒントになっているのだが、そういう人って何か素直で裏表のない人だなぁと思うので、次のような使い方もできるんじゃないかと考えている。
 たとえば、あなたが商談相手から何か質問されたとしよう。そしたら、自分から「ただ今お尻にパンツが食い込んでおりますので、定位置にすぐ修正いたします」などと申告し、すぐにパンツの位置を直すのだ。すると、恐らく相手は貴方《たかほー?》のことを「気もそぞろな状態で生返事をしたりしない〈誠実な人物〉だ」と評価するだろう。
 お尻に食い込んだパンツを気にしながら身の入らない返事をして、相手から「お尻にパンツが食い込んでるような言い方はやめてくださいよ~」と言われる前に、先んじてパンツの食い込みを申し出、正すことで、「この人は私と真剣に意思の疎通を図ろうとしている」と思わせることができるというわけだ。これが新しい類語の特筆すべき長所である。
 しかも、「いやぁ、実は私もねぇ、今ちょうどパンツが食い込んでいたところなんですよぉ、ハハハ」などと互いにパンツの位置を直し合った日には、「くいこ民(食い込んでる人の意、海外での呼称は「KUIKOMIST」)」としての連帯感も芽生えるというもので、その後の取引も気持ちよく進むこと請け合いである。
 あえて注意点を挙げるとすれば、セクハラにならないよう気をつけることぐらいか。心配なら「殿裂《でんれつ》に下着が陥入《かんにゅう》しているような口調」などと、小難しい言葉を混ぜてイメージ操作すればよい(フッ)。

 なお、ブームの影響もあってか、ここ数年、増えているという褌《ふんどし》着用者と、ブームでもないのに(言い方!)Tバックを着けている人々(KUIKOMISTA)については・・・(ごめん、今お尻にパンツが食い込んでるんで、すぐ定位置に戻して続きを話すね。クイッ、クイッ、パチン!)

 ・・・残念ながら、この新しい類語を使っていただくことはできません。お尻に何かが食い込んでいるほうが、気が〈そぞろ〉にならない人たちだからです。こういったお客様には機転を利かせ、「褌のヒモがゆるんでるような言い方」とか「Tバックの縦ヒモが伸びきってるような言い方」などの類語をご提案させていただいております。ただ、パンツを履いていないお客様(ノーパン成人)につきましては、異次元のこだわりをお持ちであることが予想されますので、上記改作例もご紹介しながら、慎重にこうご提案させていただいております。

 「お尻がパンツを穿かされてるような言い方」などは、いかがでしょう?


 


Ⓒ2023  Namio Kotori


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