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『宇治拾遺物語』絵仏師良秀01(原文、単語、訳)

【原文】
 これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。
 家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。
 人の書かする仏もおはしけり。
 また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。
 それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
 見れば、すでにわが家に移りて、けぶり、炎くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちてながめければ、

「あさましきこと」

 とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。

「いかに」

 と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、ときどき笑ひけり。


【単語】

 絵仏師/仏教絵画や仏像の彩色をして働く僧
 おはしけり/いらっしゃった
      (仏に対しての言葉なので敬語)
 衣着ぬ妻子/寝ていた妻と子供
      (昔は布団がない。
       着物を脱いで布団の代わりにしたため)
 ことにして/良しとして

【訳】
 これも今となっては昔の話だが、絵仏師良秀という人がいた。
 家の隣から火が発生して、風に吹かれた火が迫ってきたので、(良秀は)逃げ出して、大通りに出た。
(家には)人が(注文して)描かせている仏様もいらっしゃった。
 また衣服を着ていない(良秀の)妻や子なども、そのまま家の中にいた。
(良秀は)それをわかっておらず、ただ逃げ出したことをよしとして、(家の)向かいの側に立っていた。
 見ると、すでに我が家に燃え移っており、煙や火が立ち上ったときまで家の向かいに立って総じて眺めていたので、

「ひどいものだ」

 と言って、人々が見舞いに来たけれど、(良秀は)動じていない。

「どうしたのだ?」

 と(ある人が)言ったところ、(良秀は)向かいに立って、家が焼けるのを見て、うなずいて、時々笑っていた。

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並木飛暁(たかあき)
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