Vol.263 願わくは 花の下にて 春死なん
願わくは 花の下にて 春死なん その如月の望月の頃
西行
桜が満開になった。
私は毎年この季節になると思い出す。
西行の歌を。
【願わくは】
どうか・強く願う
【花の下にて】
「花」=桜
【春死なん】
春に死にたい
【その如月の望月のころ】
「如月」=陰暦2月、「望月」=満月。
釈迦が入滅(死亡)した陰暦2月15日を表す。
※今の暦では3月後半にあたる。
つまり
「満開の桜の下で、お釈迦様が亡くなられたのと同じ日に、生涯を終えたい」
そう強く願った歌なのである。
なんと心に響く言葉だろう。
狂わしいほど咲き誇った満開の桜がひらひらと風に舞い落ちる、その姿に世の無情さを重ね合わせる日本人は多い。私もその1人だ。
人生の盛りは短くあとは散るを待つばかり。
しかし願わくば最後は美しい桜の季節に死にたい。満開の花を見上げながら。
…毎年そのように思う。
西行は武士に生まれるも、23歳で出家。
諸国を巡る旅の中、数多くの和歌を残した。
当時としては長寿の73才まで生きた西行。
死の10年ほど前に詠んだと言われるこの句には「もう充分に生きた、思い残すことはない」という万感の想いが込められている。
尚、西行は文治6年2月16日に亡くなった。
つまり〝理想の死〟と歌った釈迦の命日の翌日に死んだのである。
旅と自然を愛した歌人西行。
なんと見事な人生だろうか。
【追記】
今回の記事は大学の大先輩であるShinjiyさんの名文に発想を得、書かせて頂きました。Shinjiyさんいつもお世話になっております。
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