森田邦久 (著)『理系人に役立つ科学哲学』【基礎教養部】[20240925]

「理系人に役立つ科学哲学」,と聞いて,皆さんの頭の中にはどんなことが思い浮かぶだろうか.noteのレコメンド機能がどうなっているかなど,個人的には知ったこっちゃない,という感じなのだが,その機能により,恐らく,この記事は,主に理系の人の目に触れることになりそうだなと思ったため,それを踏まえてというか,それ前提で書いていこうと思う.
先ず,タイトルからして,我々向けに書かれた本?科学哲学って,なんとなくしっくりくるようで,じゃあそれって何?説明して?て言われたら,具体的に説明できないなぁ…という感じのような気がしているのだが,本書は,研究を進めていくうえで,長期的に見て,絶大な効果を発揮する可能性を秘めた内容となっていると感じた.

日々,研究成果に追われる方々にとって,「理系人に役立つ科学哲学」,と聞くと,自身の成果に繋がるような能力を,手軽に素早く,本書から得たいと思うのではないのだろうか,あるいは,そのように得られるどうかについて,気になるところではあるだろう.この本を手に取った上でわざわざこんなnote記事を書く位なのであるから,私もその例外では無く,その中の一人であり,本書を手に取った際はそのように思った.しかしながら,あくまで,私の所感ではあるが,結論から述べると,本書は,そのような内容を手軽に素早く得られるような,単なるテクニック書では無いと感じた.しかし,本書は読者の期待を決して裏切るものではないと考えられる.本書を読み進めながら,日々の研究活動で,本書の内容を自分の頭で考えながら試行錯誤を繰り返しながら実践を試みることで,本書は,後々に,絶大的な効果を発揮するものなるのではないかと感じられた.


本書は,これまでの研究者が,なんとなく無意識・経験的に学んできた,研究を進めるうえでの必要な考え方・思考を,科学哲学という形で言語化したものとして学ぶことで役立つのではないか,という意図で書かれたようである.プロの水泳選手のフォームをなんとなく真似て,なんとなく学んでいくのではなく,その効果的なフォームを言語化して体系的に学ぶことが,より効果的になるのでは?みたいな感じであると解釈している.

ここで,ここまで本書を読み進めた上での個人的な体験談を語らせてもらおうと思う.
実際に読み進めてみると,得られた研究結果について,手探りで考察を進めていたときに感じたことって,そういうことだったのかもしれない,と気付かされることもあった.個人的な経験談にはなるが,解析結果の考察を発表する際,論理的に矛盾なく説明できた,と思った内容が,「それって,表現変えただけで同じこと言ってるだけですよね?」と一刀両断され,自分的には上手く導き出せたと思った分,少しショックを受けたことがあった.なぜだろう,今思えば,確かに同じこと言ってるだけだったように思うけど,論理的に考えて考察を行うことは重要であるはずだから,それをうまく実践できた気がするのに…という疑問があった.その疑問を解決するような内容も本書で触れられており,本書では,論理は新しい情報を生み出さない,だからこそ,論理的なのだ,という話が書かれており,なるほど!だからかぁ…となったのを覚えている.

少し話はズレてしまったような気がするが,本書は,読み手自らを考えさせるような内容となっており,即効的な効果のその先にあるような,効果が現れるまでには時間がかかるものの,研究において,より難題な問題にぶち当たった際の思考の道しるべになり,また,思考を巡らせる際に,絶大な効果を発揮するのではないかと感じれるような内容であった.また,本書による効果を得るまでには,本書の内容について,自分ならこう考える,というように,自問自答し,日々の研究活動において実践・試行錯誤する必要があると感じられた.というのも,思考を学ぶ本であるのだから,〇〇はこう考えるべきだ!こう考えれば一発で解決!という内容であるのならば,テクニックとして学びやすいかもしれないが,そのような内容だと,本末転倒であると考えられるが,本書もやはり抽象的な内容が続いており,そこは,自分の頭で考えて,日々,自分自身の研究活動で実践して学ぶしかないのかなと感じている.逆に,だからこそ,時間は掛かっても価値のあるものを得られる一助になるような本になりうると感じられた.

ここで,話は変わるが,研究は,サイエンティスト型とエンジニア型に大別されると考えている.前者は,基礎研究などがそうで,後者は応用研究などがそうであると考えている.エンジニア型の場合,始める前からすでに,ある程度,どんな結果が得られそうかなどの見通しを立てることが可能である一方,未知の現象に対するメカニズム解明を始めとしたサイエンティスト型研究の場合,そもそも,何が得られそうなのかも全く見当が付かず?眼の前は分厚い霧で覆われているような感じで,様々な方向へと広がっているように感じている.何も分からないような状況の中を,0から自分で創り上げていく状況に直面する機会がエンジニア型研究よりも多く,総合的な難易度が高いと考えている.様々な要因が複雑に絡み合っており,先ずは,その複雑に絡み合った要因を一つずつ分解しないといけない,そこで,取り出したい要因を理論的なバイアスを含めないようにしながらクリアに取り出せる,唯一無二の実験装置を考案・制作し,実験・検証を行う,そして得られた結果を謙虚に受け止め,実験結果を証明する理論を,自らの手で生み出していかなければならない,このような状況になったときに特に,本書はその真価を発揮するのではないかと考えられる.
本書を通して自分のなかにしっかりとした科学哲学を持っておくことで,自らの手で理論さえも創っていくような状況となった際にこそ,本書の真価・恩恵を感じられるのではないかと考えている.
本書は素晴らしく,ぜひ一読されることをお勧めする.


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