
ルックバックはoasisの夢を見るのか
「ルックバック」がOasisの "Don't Look Back In Anger"との関わりがあるという話を聞いて、
「いやいやそんなわけ…
…ほんまや!」
となったのでここに書き記す。
もうすでに誰かが書いていようとも、そんなことは関係ないのだ。
ルックバックの余韻を、oasisの歌でより深く味わいたい。
味わうには書くことが一番。
(翻訳が最も濃密な読書だというようなことを、村上春樹さんと柴田元幸さんが『翻訳夜話』で言っていた気がする。)
Slip inside the eye of your mind
Don`t you know you might find
A better place to play
You said that you`d once never been
All the things that you`ve seen
Will slowly fade away
あなたの心の目の中に入り込んで
見つかるかもしれない
もっといい遊び場が
君は一度も行ったことがないと言った
君が見てきたすべてのものは
ゆっくりと消えていく
slip insideが入り込むというような意味なんだろうけど、
ドアの下の隙間からマンガが滑り込んでいくあの描写とのつながりを感じる。
それに、はじめて藤野が京本のマンガの絵を見たときの、目から心の中へギュンと絵の情熱が滑り込んでいく感じ。
"A better place to play"=「もっといい遊び場」なんだけど、
帰り道にアイス食べるより、姉と空手を習うより、
机にかじりついて「絵を描くこと」こそが、"A better place to play"だったのだ。
そのほかのすべてのものは、ゆっくりとfade awayしていく。
絵のことしか考えられない。
学校では、ぼーっとしてるか、絵を描いているかの藤野の感じがまさにこれ。
にしても、mindとfind、place to play、beenとseenなど韻をきれいに踏んでいて、とても美しい歌詞だ。
So I start the revolution from my bed
'Cause you said the brains I have went to my head
Step outside, the summertime`s in bloom
Stand up beside the fireplace
Take that look from off your face
You ain`t ever gonna burn my heart out
だから私はベッドから革命を始める
自分の才能に自惚れていると君が言ったから
咲き誇る夏の外に出よう
暖炉のそばに立って
その表情を拭い去って
君は僕の心を焼き尽くすことはない
ここでもbedとheadで韻を踏んでいる。bedはルックバックでは机で、あの子ども部屋から革命を起こしていく。マンガで田舎から都会へ挑んでいく感じが重なる。
"go to one's head"で「(成功・名声などが)慢心させる、自惚れている」という意味らしいので、これは藤野のあの学年新聞でみんなにチヤホヤされて自惚れている感じ。京本はそれを「自惚れている」と言葉で言ったのではなく、それを上回る絵を見せつけたのだが。
”Step outside, the summertime`s in bloom”のところは、
「やーめた」とマンガを投げ出すシーンとも重なる。
友達と遊んでいても、空手の練習をしても、
そんなものでもこの心は燃え上がらない、とうすうす気づいてはいるのだ。
So Sally can wait
she knows its too late
as we`re walking on by
Her soul slides away
But don`t look back in anger
I hear you say
だからサリーは待つことができる
通り過ぎるには遅すぎるとわかっている
彼女の魂は滑り出していく
だが怒りで振り返ってはいけない
君がそう言った気がした
卒業証書を置いて、無視して行ってしまうには遅すぎた。
そして、京本は藤野と出会う瞬間をずっと待っていたのだ。
どの世界線にいても。
「藤野先生ですか?」と嬉々として呼びかけるのだ。
彼女なら待てる。いつまでも藤野を待つことができる。
「二人がもっと早く出会っていれば」と思った人も多いはず。
孤独に絵を描く時間も必要だった気がするが、もっと楽しく絵に打ち込めたかもしれない。
だが、怒りを持って振り返るべきではない。
それは二人にとって、とてもかけがえのない時間だったのだから。
「藤野先生!」「みたい!みたい!みたい!」のところとか。
そのあとの、あの印象的な疾走シーンとか。
この日を待っていたんだ、そのときまで知らなかったけど。
あの努力はこの瞬間のためにあったんだと、
感情が爆発するあの瞬間が。
"don`t look back in anger"って言ってる気がする。
Take me to the place where you go
Where nobody knows
If it`s night or day
Please don`t put your life in the hands
Of a Rock n Roll band
Who`ll throw it all away
あなたが行く場所に連れて行って
夜か昼か誰も知らないところへ
ロックンロール・バンドに命を預けるな
ロックンロール・バンドに誰がすべてを投げ出すのか
「夜か昼か、誰も知らないところ」というのは、
二人が昼夜を問わず書き続けたマンガのことのようにも思えるし。
「あなたが行く場所に連れて行って」のところは、
マンガ賞の賞金をもって街に繰り出すあのシーンにつながる気もする。
映画を観て、美味しいものを食べて。
あの振り返って手を取り合う場面こそ”look back”であり、
京本目線で藤野に連れ出され、藤野を追いかける日々だったのだろう。
暖炉はないかもだけど、雪国っぽさはあって。
たのしい日々を過ごすのだが、二人は別々の道を行くこととなる。
京本が藤野から自立しようと決意し、「一人の力で生きてみたいの」と言う。あの二人で言い合うときの、あの冬枯れた木が関係の終わりを象徴していて切なかった。
So I start the revolution from my bed
'Cause you said the brains I have went to my head
Step outside the summertime`s in bloom
Stand up beside the fireplace
Take that look from off your face
You ain`t ever gonna burn my heart out
So Sally can wait
she knows its too late
as we`re walking on by
Her soul slides away
but don`t look back in anger
I hear you say
Don`t look back in anger
Don`t look back in anger
Don`t look back in anger
At least not today
だから僕はベッドから革命を始める
僕は自惚れていると君が言ったから
咲き誇る夏に外へ出よう
暖炉のそばに立って
その顔から表情を拭い去って
君は僕の心を焼き尽くすことはない
だからサリーは待つことができる
僕らが通り過ぎてしまうには遅すぎるってことを
彼女は知っている
彼女の魂は滑り落ちていく
だが怒りで振り返るなと言うのが聞こえる
怒りで振り返らないで
怒りで振り返らないで
怒りで振り返らないで
少なくとも今日は
今度は一人で、藤野は机から
自分の部屋から世界へマンガを送り出していく。
「私についてくればさっ 全部上手くいくんだよ?」と藤野は言った。
「もっと絵… 上手くなりたいもん…」と京本が絞り出すよう言った。
今度はあの二人のやり取りをバネにして、藤野は自分の活躍を京本に見せつけてやるんだと奮起して、マンガに打ち込んだに違いない。
そして、美大での悲劇のニュースが飛び込んでくる。
殺した犯人が悪いってことは、藤野ももちろんわかっているのだけど、
でも、そのきっかけの始まりは自分にあるのではないか。
バタフライ効果で有名な気象学者のエドワード・ローレンツによる、
「蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?」という仮説があるらしい。そして、有名な映画もある。
あのマンガが、京本を部屋から出したことこそが、この結果につなげてしまったのではないかという後悔に心を蝕まれていく。
ここで過去の部屋と現代の部屋がつながるのだが、
フィクションにありがちな過去に戻って、
別の世界で救って京本を生き返らせるということにはならず、
生き延びた世界線にいる京本からマンガだけが届く。
「怒りで振り返らないで、少なくとも今日は」とでも言うように、
ドアの下から滑り込んでくるのだ。
「じゃあ藤野ちゃんはなんで描いてるの?」っていう問いと、
京本の部屋にある半纏の背中に大きく書かれたサイン。
どのマンガでも、一番はじめの最高の読者だった京本との日々。
Don`t look back in anger
At least not today
そして百聞は一見に如かずというけど、このMADが細かい説明抜きにして核心をついている気がする。
むしろこの文章はこの動画のための、余計な解説に他ならない。
でも書かずにはいられなかった。
ちなみに、バタフライエフェクトをはじめとする名作映画とこの作品とのかかわりはこの記事に詳しく書かれていて、「なるほど、全くおっしゃる通りです。」という感じなので、今更付け足すことはない。
いやぁ、映画ってほんとにいいものですね。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ