まとまらない言葉を生きる
久しぶりにすごい本を読んだと思った。読み終えたときはすぐにSNSで紹介して、SNSをやっていない友人にも紹介したほどだった。
この本はその人の興味や関心、属性といったことに関わらず多くの人に読んでほしいと思える本である。この本がどのような構成になっているか、といったことを話してしまうとネタバレになってしまい読み終えた後の効果が薄れてしまうと思うので、構成のことを語るのを避けながら、可能な限りいかにすごい本なのか紹介しようと思う。
「まとまらない言葉」とは何か
本の題名にある通り、「まとまらない言葉」というのがこの本の重要なキーワードになる。「まとまらない言葉」とは何か。
文学者である筆者は、近年「言葉の壊れ」を感じている。ここで筆者の言う言葉の壊れというのは、単なる言葉遣いといったことではなく、SNSで飛び交う人を傷つける言葉や、政治家が放つ国民を分断させるような、もっともっと根が深い言葉のことを指している。
この本ではそういった「言葉の壊れ」に抗った人たちの人生と残した言葉が書かれている。そういった人々の残した言葉は一言では表せられない、簡単に理解することのできないような「まとまらない言葉」が多い。この本で言葉とともにその人の生きざまが紹介されるのもそれが理由なのではないだろうか。言葉と人生は分解できない。その人の人生を理解しないとその人の言葉も理解できない。そういった簡単には理解できない、一言では伝えられない言葉を「まとまらない言葉」と筆者は言っているのだと思う。
安易な要約主義に抗え
一方でタイパ、コスパが叫ばれる時代。持て囃されるのは誰もが一発で理解できる言葉である。しかしそういった言葉は本当に発言者の意図を余すことなく汲み取った「まとまった言葉」なのだろうか。Twitterは140文字といった制限があるが、タイムラインに流れる言葉は本当に「まとまった言葉」なのか?実際は意味を削ぎ落した、まとめるため、理解しやすくするために犠牲となってしまった部分のある、「削がれた言葉」なのではないだろうか。
筆者は本の中で繰り返し「うまく言葉でまとめられないものの尊さ」について読書に訴えかけている。短い時間で報告することに大きな価値が置かれているが、人の心に訴えかける、人を動かす言葉は必ずしもタイパ・コスパ重視の言葉ではない。
SNSでは「強い言葉」「わかりやすい言葉」「口触りの良いキャッチフレーズ」がバズる傾向があるが、バズる言葉が本当に良い言葉なのだろうか。
本書のなかに「評価されようと思うなよ」という言葉があるが、本当に凄い行いは評価されるものではない。評価されるというのは、評価する人の想像力の範囲内に収まっているということだ。大衆の想像力を超えた本当にすごいものは評価することができないから、バズることもない。
わたしも「いいね」や「RT」の数を追って、「強い言葉」「わかりやすい言葉」についつい手を出してしまい、安易な要約主義に加担してしまいそうになる。しかしこの本に紹介されているエピソードが、安易な要約主義に抗う勇気を与えてくれるのではないだろうか。
この本で紹介されている人々は一般的には有名でない方も多く自分自身お名前やご活動を存じ上げない方ばかりであった。しかしその人の残した言葉と生き方から学ぶことは多く、惹かれることも多い。出典も掲載されているので、より深く知りたい場合はブックリストとしても使用することができる。
「まとまらない言葉」を愛すための勇気をもらい、このブログを書き上げた。上手くこの本のすごさを伝えられたかどうか分からないが、できるだけ多くの人たちにこの本を手に取ってほしいと思う。
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