銀河鉄道の父
成島出監督作品、役所広司氏主演の「銀河鉄道の父」を観てきた。
門井慶喜氏の同名小説を原作とし、「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」などで有名な宮沢賢治没後90年を超えたこの令和の時代に、賢治父・宮沢政次郎の視点で、宮沢賢治の半生を描いた今作。
予告からちょい涙うるうるしてしまった私は、前売り券を迷わず購入。
1ヶ月前から、公開を待ち望んでいた。
そしてやっと見に行ってきた。
妹と一緒に、ポップコーンとポテトとチュロスを買って席に着く。
あらすじ
以下ネタバレあり感想
気になったポイント
最初に言っておくと、今作めちゃくちゃ感動した。
特に最後の方は、感動してずっと泣いてた。
だけど、「あれ?」「おや?」と思うところが2点だけあったので、そこだけちょっと触れておきたい。
思ってたのとちょっと違う
「銀河鉄道の父」っていうくらいだから、てっきり賢治は物語の中盤で亡くなって、後半は政次郎が、どのように賢治を世に売り出していったのか、その様子が描かれるのだと思っていた。
でも実際見てみると、映画の終盤くらいまで賢治は生きてる。
もちろん、主役となる宮沢政次郎の視点から描かれてはいるけど、息子の賢治とどう向き合い、どのように息子を見送ったのかというのが描かれているだけで、賢治が亡くなった後、政次郎がどのような働きかけをしたから宮沢賢治がここまで後世に語り継がれていったのかというのは、殆ど描かれていない。
私は原作を未読のまま映画を見たので、原作はもしかしたら賢治の死後がもっと描かれているのかもしれない。
ただ、パンフレットでも原作とだいぶ違うと書いてあったから、あえて成島監督がこういう描き方をしたのだと思う。
予告や、チラシで賢治の死後も家族がその作品を世に送り続けたと謳っていたから、そこの部分を期待していたので、「あれれ?」となってしまった。
賢治の傍若無人さ
この作品は、テンポもサクサクしていて、且つ場面展開が多い。
説明過多なところもなく、実に整然とした作品。
それにとても映像が綺麗で、思わず見惚れてしまった。なんだけど。
途中ほんの少し、なぜだか退屈に感じてしまう時がある。
しかも、その理由がうまく言語化出来ないから実に厄介だった。
なんでだろう?とずっと考えていて、もしかしてこれかも?という答えに辿り着いた。
さっきの章でも触れたけど、今作は宮沢賢治がいかにして有名になったか、というのは描かれていない。
ほとんど宮沢賢治の生涯を追っている。
それで賢治は、生前ほとんど認められていない。
いや、関係各所には新進気鋭の作家と言われていたけど、世間一般にはウケなかった、というのが正しい。
だから、この作品はサクセスストーリーではない。
かつ、宮沢賢治という男はかなり傍若無人で、家族を振り回し、その癖自分のやりたいことがコロコロ変わるプー太郎。
彼を演じた菅田将暉氏の演技力が凄まじいからというのもあるけれど、その様子はなかなか受け入れがたいところがある。
この二つの要素が重なって、退屈さに変換されてしまったのかもしれない。
***
ここからは、感動したところについての話
知られざる父と息子の絆
宮沢賢治と言えば、妹トシとの兄妹愛が有名だったから、そう言えばそのほかの家族と賢治の関係がどうだったのか全く知らなかった。
映画見ていて、父親の賢治に対しての愛が色濃く描かれていて、今まで知りもしなかった家族との関係性に恥ずかしながら驚いた。
政次郎の賢治を溺愛する親バカっぷりは、冒頭の鉄道のシーンから映画全編を通して、鑑賞者に途切れることなく伝えられる。
特に幼少の賢治が赤痢になって、病院に入院したことを知った政次郎が自ら看病に行くシーンや、賢治の本が発売された時、書店員に馬鹿にされて怒鳴りつけるシーンは思わずクスッと笑ってしまうくらいの親バカっぷり。
もちろん商家の跡取りとして育てたい政次郎は、賢治に厳しく接し、時に激しいぶつかり合いにもなるけど、それも賢治を愛するが故の行動。
そんな政次郎に褒めてほしかった賢治が、死の床に伏す間際、「お父さんやっと褒めてくれたね」というシーンがある。
そこですかさず「褒めたでねぇか!」と政次郎が力一杯賢治に伝えるシーンは、父の愛と、最愛の息子を失う絶望が最大限に爆発し、政次郎と共に思わずボロボロと泣いてしまった。
映画のラスト、政次郎が列車の中でトシと賢治に「ありがとがんした」といって暗転するシーンで、この人が賢治の父親でなかったら、多分あの繊細で純粋な物語は紡がれなかったんだと政次郎に対しての深い感謝が込み上げてきた。
天才宮沢賢治の立役者、トシ
宮沢トシ子、やはりこの子がいなくては宮沢賢治は生まれていなかった。
トシが兄の才能を見抜き、褒め称え、政次郎を説得しなかったら宮沢賢治はきっと歴史の渦に飲み込まれていた。
トシがおじいさんをビンタし、「綺麗に死ね!」と言い、その後お爺さんを抱きしめて「怖くないですよ」と優しくいったあのシーン。
それを間近で見ていた賢治は、女性の強さと逞しさを感じたのだと思う。
雨ニモマケズにあるこの一説は、きっと妹のトシの姿を見て書いたのかと、かつての賢治に思いを馳せてみる。
映像の美しさ
この映画は田舎ののどかな風景と、明治大正の古き良き雰囲気を楽しむことができる。
華美ではないが、良家・宮沢家の上品さを表す衣装や家屋、そして、当時のものを細部まで再現した小道具が、物語への没入感を高めてくれるし、賢治が農業に目覚めてからは、自然が作り出す美しさに目を奪われた。
特に、稲穂が黄金色に輝いた実りの秋の風景は、まるで黄金の絨毯のような綺麗な風景で、見終わった後妹と「凄かったね〜」と余韻に浸っていた。
まさに映画ならではの、映像美だったと思う。
役者陣の演技力
役所広司氏と菅田将暉氏が親子共演と知った時から、これは面白くない訳ない!と確信していた。
予告の段階でうるうるしてたのは、その作り方が上手いからなんだけど、ほんの少しの演技でも鑑賞者の心を揺さぶることのできる役者陣の演技力と表現力が成すところだと思う。
この映画は、トシと賢治が天に旅立つその時までが描かれているけれど、この死の間際の演技は特に凄かった。
側で見守る家族と同じくらい、私も「死なないでくれ!」と願いながらそのシーンを見守っていたし、旅立った後からは、残された家族と同じような顔をして泣いていた。
ここまで鑑賞者を物語の世界に引き込んでくれた役者陣、そしてその演技を最大限魅力的に見せてくれた監督初めて多くのスタッフの方々のおかげで、この映画はずっと深い愛と感動に包まれていた。
最後に
衝突しながらも、お互いを想いあってる父と息子の絆は、新たな宮沢賢治像を教えてくれた。
映画全編を通して、愛と家族の絆の強さ、そしてほんの少しの悲壮感を感じることができる。
家族にふと会ってみたくなった貴方に、是非。