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『サード・キッチン』白尾悠
実は、この本を手に取って読み終わったのは
このnoteを始めた4月より前の、3月。
なんなら、留学帰国後に楽しみにしていた
「読みたかった本大人買い」の際に購入したもの。
いわゆる、積読本の内の一冊だった。
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それでも当書について書きたかったのは、
私がこの本を通して
自分なりに考えて、内省して、共感して、元気をもらって、なおかつこの本のことが大好きになったから。
ゆえに、「最近のオススメの本は?」と聞かれたら
前回書いた辻村深月さんの『傲慢と善良』と、
この『サード・キッチン』の2冊を答えている。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/102652899/picture_pc_89de9f487760d3ebd4edf9fe53de39c9.jpg?width=1200)
この本の構成は毎話、尚美が「久子さん」に宛てて書く手紙から始まる。
手紙の内容は、専ら留学先であるアメリカのリベラル・アーツ・カレッジで送る楽しげでキラキラしたキャンパスライフ。
しかし、実際は手紙に綴る内容とは真逆の留学生活を送っていた。
言語の壁に苛まれ、スムーズに言葉が出てこず感じる焦燥感や劣等感。
寮のルームメイトは尚美を無碍に扱い、同じ大学に在籍する日本人は皆裕福な家庭出身の帰国子女やアメリカのハイスクール出身で、尚美に対して「あなたとは違う」を醸し出す態度をとる。
どこにいても自ずとマイノリティに属し、
孤独感を感じていた尚美がやっと見つけた自分らしくいられる居場所。
それが「サード・キッチン」である。
尚美は、人種、互いの国の歴史的背景、ジェンダーなど多種多様なバックグラウンドを持つ「サード・キッチン」のメンバーと関わり合う中で、自分の内に潜む差別、偏見、無知、無関心と初めて対峙する。
自分のアイデンティティは何か。
何を思想するのか。
知らない世界とどう関わっていくのか。
尚美と一緒に考えさせられる、考える時間をくれる本である。
今まで一人で空腹を満たすためだけにしていた食事に反して、友人と共に参加した「サード・キッチン」でふるまわれた料理を口にして、
「すごく久しぶりに、美味しいご飯を食べた。」と感想を述べる尚美に、同席したアンドレアがかけた言葉。
"I'm happy for you."
「こーんな遠い国に来て言葉も違うし食べ物だって…どんなに大変か、あたしには想像もつかない。だから、ナオミが今夜、美味しいご飯を食べられて良かった。あたしもとっても嬉しい!」
あなたが幸せで私もうれしい。
"I'm happy for you."
なんてシンプルで温かい表現なのだろう。
私が同じ場面に立った時、こんな言葉をかけられるだろうか?
本を読むということの醍醐味の一つは、自分の気持ちを表す最適な表現を知り、自分の言葉として大切な人に伝えられるようになることだと思う。
そして私も、アンヘロが作る、お祖母ちゃん直伝のチリコンカルネを食べてみたい。