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6月9日「空港のトラブルと新たな旅立ち: 一人で挑むヨーロッパ冒険」


前夜は夜更けまで忙しく動いていた。一ヶ月の長旅に出るために、家を留守にしても問題ないように、細かな準備に追われたのだ。荷造りを終え、疲れ果ててベッドに倒れ込むと、あっという間に夜が明けていた。朝6時、ほんのわずかな睡眠を終え、予約していたタクシーで空港へと向かう。長い間念願だった海外旅行の出発日が、ついにやって来た。案内人もいない自分だけの冒険に、心は期待でいっぱいだが、同時に緊張で引き締まってもいた。

空港でのチェックインは、予想外の問題から始まった。日本特有の小型ガスボンベがセキュリティチェックで引っかかってしまったのだ。この旅では節約を心掛けていたため、携帯コンロは必需品。しかし、この小型ボンベがなければ、コンロを持って行く意味がない。ヨーロッパで一般的な大型ボンベは、その重さとサイズが問題である。一時は「ガスを抜いて空の缶だけ持って行くならどうか」と提案したが、係員は困惑しながらも規則を説明してくれた。「申し訳ありませんが、安全規則上、ガスボンベの搭載は許可できません」とのこと。周囲にはチェックインを待つ人々が列をなしており、焦りが増すばかりだった。しかし、このコンロはヨーロッパでの食事を自炊する上で不可欠なアイテム。ボンベなしでは旅行の計画に支障をきたす。

結局、空港の外でガスを抜いて缶だけとして持ち込むことになった。急いで外に出て、ガスを安全に抜き、再びチェックインの列に戻る。まるで時計の秒針が早送りされているかのような急ぎ足で、心臓はドキドキしていた。しかし、何とか無事に搭乗することができた。

乗り継ぎ空港のソウルに着いた時、30日後の帰国チケットを持つ自分が、この長い旅の始まりに立っているという実感が湧いてきた。帰れない旅、その重さに一瞬、息が詰まりそうになった。パリへはまだ10時間のフライトが残っている。「どんな場所に、どんな人に出会うのか、全ては未知数。だからこそ、旅に出るのだ」と自分に言い聞かせ、不安を振り払った。これまでの勤務生活で積み重ねたストレス、時には更年期の影響で感じるパニック症状に打ち勝つための旅でもある。旅路の中で時折訪れる不安との闘いは続くが、毎回「負けない」と自分に言い聞かせた。

飛行機が離陸してからしばらくすると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。しかし、ある瞬間、その泣き声がピタリと止んだ。振り返ると、スチュワーデスが赤ちゃんを優しく抱きしめ、機内を歩いている姿が見えた。赤ちゃんは彼女の温もりに安心しているかのように見えた。この光景は、他者への純粋な優しさが如何に心を温めるかを教えてくれた。その瞬間、私の心の不安もどこかへ消えていった。

この旅の記録は、2004年の夏に、一人の中年女性が体験した冒険の物語である。準備の段階から始まり、未知の地への出発、そして旅の中での大小さまざまな試練と発見。それぞれが、私の人生における大切な一ページとして記憶されていく。


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