「10年」という時間をプレゼントしてくれた人。
これは僕が大学生の時の話です。
僕は当時、いまさせてもらっているカウンセラーの資格を取るために、大学院への進学を考えていました。
そしてそれは、僕が大学浪人時代から温めてきた、5年来の夢でもありました。
でも、僕は大学4回生のときに、その大学院の入試に落ちてしまったのでした。。。
自分では、結構勉強もしてきたつもりで、勝手にそれなりの自信もあったのですが、見事にその希望は砕け散ってしまったように思いました。。。
失意の中で、僕はあきらめて、他の道に進もうと思いました。
少し他で声をかけてきてくれている人がいたので、そっちの道に進もうかと思ったのです。
そして、そういうふうに思って、卒業論文のときにお世話になった、指導教官の先生のところに、お礼と、進路変更のご挨拶に行くことにしたのでした。
時間の約束をしてご挨拶に行って、僕はその先生に、進路変更をすることを伝えました。
「どうしてですか?」と尋ねてこられた先生に対して、僕はあきらめた理由と、自分は向いていないと思うということ、別の仕事で声をかけてもらっているということ、などなどを、気がつくと延々30分くらいしゃべっていました。。。
そして僕は最後に、「なので、大学院への進学はやっぱりやめることにします」と伝えたのでした。
すると先生は、しずかな落ち着いた声で、「そうですか。あなたの今の気持ちはよくわかりました。」と言われました。
その言葉を聞いたとき、僕の意向は伝わったのだと思いました。
しかし、その先生は、その言葉に続けて、じっとこちらを見つめながら、さらに一言、こう言ってくれたのでした。
「でも、僕はあと10年はここにいると思いますから、いつでも帰ってきてくださいね。」
と。。。
「え、10年。。。 なんで???」と思いました。。。
「なぜこの人は、僕のことを10年もの長い間、待ってくれると言うのだろう???」と思いました。。。
だれかから、そんなに長い間待ってくれると言われたことは、それまでの人生で一度もなかったからです。
そしてしばらくその言葉をかみしめてみたとき、僕には、「この先生は自分のことをなにか期待してくれているからこそ、待ってくれるというのだ」ということがわかりました。
そして、「10年なにかを待つ」覚悟というそのスケールの大きさに、すぐにあきらめてしまった自分の「小ささ」が包み込まれるのを感じたのでした。。。
「10年かあ。。。」と思ったのでした。。。
そのときすぐに僕の気持ちが完全に変わったわけではありませんでした。
でもその先生の「10年」という言葉のおかげで、僕には自分には全く見えていなかったし、想像もできていなかった、「これから来る10年という時間」があるように思えるようになったのでした。
そしてその後、父親との相談でも励まされて、僕はやっぱりもう一度挑戦してみようと思いました。
「もしかしたらまたダメかもしれないけれど、とにかくやってみよう!」と思えるようになったのでした。
数日後に大学でお会いしたときに、先生は表情が変わった(明るくなった?)僕の顔を見てすぐに気づかれて、「ああ、それじゃあまた(やるんですね?)」と声をかけてきてくださいました。
僕は「よろしくお願いします」と返しました。
そしてその後もいろいろなことがあって、25年が過ぎても、先生にお世話になりっぱなしのまま、現在の僕がいます。
でも、いま20年以上お会いし続けているクライエントの方もいるのは、「カウンセリングというのは、たとえ10年でも20年でも、相手の方の可能性を信じて待つことですよ」という、あのときの先生の教えをがあるからだと、強く思うのです。
カウンセラーや教師の仕事というのは、相手にいまは見えなくなってしまっている未来をプレゼントする仕事なのではないかと思います。
簡単なことではないのですが、僕もこれからもコツコツ仕事をして、かかわらせてもらえるご縁をいただいた人に、少しでも明るい未来の方に向かって歩んでもらえるように、努めていきたいと思っています。
それが先生に対する一番のご恩返しになるのではないかと思うので。。。
先生、いつもどうもありがとうございます!!
これからもますますお元気に!!