【旅の記憶】長距離バスでどこへゆく?(旅のなかの旅 サン・ジミニャーノ①)
朝起きたら今にも雨が降りそうな気配である。
今日は月曜日で美術館は休みのところが多く、もしフィレンツェで一日日帰り旅をするなら今日かな、と思っていたのだが、
朝食を食べながらまだ踏ん切りがつかない。
そもそも日帰り旅行をするかどうかでも、行くとしたらどこへ行くかでも迷っていた。
出発前は、フィレンツェの町歩きだけでも行きたいところが目白押しで、
実際到着したらそこから更に別の町へ行きたい気持ちは失せるかもしれない、そう思っていた。
しかしいざ到着すると、せっかくここまで来たのだから、気になる場所があるならやっぱり行こうかな、と気持ちが揺らぐ。
場所はサン・ジミニャーノが第一希望。シエナが第二希望。
フィレンツェ近郊の町で一番メジャーなのはおそらくピサだろう。何と言っても斜塔である。
しかし私の中では少しばかり順位が低かった。斜塔以外の知識が乏しかったからかもしれない。
次にメジャーなのは「世界一美しい広場」、カンポ広場を有するシエナではないだろうか。
ここも歴史の古い町であり、少し傾斜した扇状のカンポ広場を訪れたい気持ちはあった。
乗り継ぎなしでバス一本で着くのも魅力的だ。
ただそれよりも、以前テレビで見たサン・ジミニャーノの方が私を惹きつけていた。
中世の四角い塔が沢山残っているその町は、画面を通しても他の町にはない神秘的な風情が漂っていたのだ。
迷いながら昨晩、泊まっていたB&Bに備え付けの宿泊者用ノートを眺めていたら、
「ツーリストの皆さん!サン・ジミニャーノへぜひ行って下さい!」という日本語の文字。
結局パンを食べ、ヨーグルトを食べ、カフェオレを飲む頃には心は決まっていた。
天気は悪いがせっかくの一人旅、行きたいところへ行かないでどうするのだ、と。
私は部屋へ戻るとバッグを肩にかけ、駅前のバスターミナルへと向かった。
ガイドブックによると、サン・ジミニャーノへの直行バスはなく、
ポッジボンシという町で一度乗り継がねばならないという。
所要時間は1時間から1時間半。乗り継ぎ、というだけで個人旅行者にとっては結構なプレッシャーだ。
ターミナルへ向かう途中、フィレンツェの中央駅であるサンタ・マリア・ノヴェッラ駅の反対側へ出た時に、トラムが走っているのを見てかなり驚く。
だってガイドブックにフィレンツェにトラムが走っているなんて一言も書かれていなかったから。
後から調べると2010年に開通した新参者の交通機関らしく(当時。更に今調べると、2019年には空港と町を結ぶトラムもできてる!)、
交通渋滞緩和のためにここと郊外を結んでいるらしい。
長距離バスのターミナルに着き、入口入ってすぐの受付で大人しく順番を待って尋ねると、
「サン・ジミニャーノなら奥の切符売り場で買ってちょうだい」とのこと。
間違えて旅行代理店のカウンターに入り込んでいたのだった。
言葉が読めないと、往々にしてこういうすっとぼけたことをする。
気を取り直し、バスが並ぶ奥へと向かうと、ちゃんと普通の切符売場があり、数名が並んでいる。
「サン・ジミニャーノ。ウーノ(一人)」で問題なく買うことができた。
ただ、このとき往復で、と言おうか迷ったのだが、
何も聞き返されず片道で発券されたため、まあいいか、と思ったのが後々面倒なことに・・・。
停車しているバスの中にポッジボンシ行きがあったので、その近くで待っていたのだが、
係員(運転手?)が傍を通りかかったので念のため確認してみると、
「こっちだよ」とシエナ行きのバスへ連れていってくれた。
どうやらシエナ行きもポッジボンシを経由するらしく、こちらのバスの方が先に出るようだった。
しかも窓越しにこちらのバスの運転手に「この子サン・ジミニャーノだって!頼むぜ!」とか何とか声をかけてくれたのだ。
うわ、親切!と嬉しくなる。
更にバスに乗り込んで、これも念のため(念には念を入れないと不安な一人旅)
「バス、チェンジしないといけないのよね?」と英語で確認すると、「乗り換えのときに言ってあげるから大丈夫だよ」と優しい笑顔。
ここのバスの人、皆めっちゃ親切やん、と一人うきうきする。
先に発車するバスに乗れたお陰でバスはすぐに動き出し、いよいよサン・ジミニャーノへの日帰り旅が始まった。