【旅の記憶】バスはまだか@ポッジボンシ(旅のなかの旅 サン・ジミニャーノ②)
バスは有名な橋であるポンテ・ベッキオの三つ西側のヴェスプッチ橋を渡り、市街地を南下していく。
じきに車窓にローマ門という、こちらも有名な建造物が。
この三、四階建ての建物ほどの高さのあるローマ門、フィレンツェ市街地の南の端でピッティ宮に続くボーボリ庭園と隣接しているのだが、
少し街中から離れているようだったので、車窓から眺められたのはとてもラッキーだった。
実はこれも後からわかったのだが、ここはダン・ブラウンの小説『インフェルノ』でえらくクローズアップされている古い城壁跡。
私も知っていたら・・・という以前の記事(【旅の記憶】体力勝負、ヴェッキオ宮殿)でも書いた呟きは今後も各所で登場することになる・・・
それを過ぎると、空港から見た風景同様の郊外の景色が広がり、
更に建物が減って今度はぽつぽつと一軒家があるだけのトスカーナの風景となる。
それが冬枯れの季節だからだろうか、何となく樹木の感じが日本と似ていて、ここだけ切り取ったら国内旅行に思えなくもない。
ただしブドウ畑だけはシーズンオフでも独特で、これが車窓に出てくると、景色がはっきりイタリアを主張するのだった。
あの親切な運転手は、と見ると、地元の馴染み客なのだろうか、それとも赤の他人なのだろうか、
運転しながら後ろの席のおばさんと喋ることかまびすしい。
私の前の席には日本人の夫婦連れが座っていて、日本語トークをずっと繰り広げている。
日本人旅行者を見かけると、やはり一人は寂しくもあるし、時と場合によっては喋りかけるのだけれど
今回はタイミングも合わず彼等に話しかけるのはやめてしまった。
うーん、それにしても今回の旅ではなぜか一人旅の人になかなか出会わない。
袖触れ合うも・・・となるのはやはり一人旅同士が多い気がするので、
それがないのは少し残念なような気がした。
ぐるぐる続くラウンドアバウトを抜け、アパートなどの並ぶ町に入る。
駅前ロータリーにでかでかとポッジボンシの文字。これなら運転手に教えてもらわなくても一目瞭然である。
それでもドライバーのおじさんは大きな声で、「サン・ジミニャーノへ行く人は乗り換え!」と約束通り教えてくれた。
私を含めた数グループ(一人は私だけ)が下車した。
日本人のご夫妻はどうやらシエナへ行くようだったけれど、先に降りた私のことを日本人だと思ったろうか?
喋らないとアジア系同士でもどこの国の人かわからないことは多い。
さて、ポッジボンシの駅前ロータリーには、売店以外特に何もない。
大きな電光掲示板にバスの時間や行き先などが表示されており、サン・ジミニャーノ行きは30分後に出ることになっている。
まあ、今ここで待っている旅行者はほぼ全員がサン・ジミニャーノに行くのだろうから、一人乗りそびれるようなことはあるまい。
かと言ってロータリーから離れるのも不安なので、駅の中のベンチで腰掛けて待つ。
売店の前では近所の住人なのだろうか、おじいさん達が寒いのに外の椅子に座って大きな声でくっちゃべっている。
ロータリーの裏手は駅舎で、この電車でもフィレンツェからポッジボンシへ来られるのだ。
この町には一体どういう人が住んでいるのだろう。
周りをフィレンツェやシエナ、サン・ジミニャーノといった世界遺産に囲まれて、
ここに暮らすというのはどういう感じだろう。
毎日観光客が町中を歩き回ることもなく、案外落ち着いた暮らしなのかもしれない。
町中を見ることはできなかったので、想像を巡らせるしかないのだった。
そろそろバスが来る時刻だ。電光掲示板もサン・ジミニャーノ行きが一番上になった。あと5分、あと2分・・・
身体が冷えたので、早くバスに乗り込みたい。ところが時間になってもバスが来ない。
いやぁ、海外で交通機関が遅れるなんてざらでしょう、と呑気に構えようとしたが、電光掲示板からサン・ジミニャーノの一行が消え去った!
え?バス行った?でもロータリーにバス全然ないで?
焦って前にいた家族連れのお母さんに(彼らは英語で喋っていたので話しかけるなら彼らだ、と目をつけていた)、
「あなた達、サン・ジミニャーノ行きのバスを待ってるよね?心配で・・・」と声をかけた。
「ああ、消えちゃったものね。遅れてるのよ、きっと。」との返事。まったく動じる様子もなく、何だか安心した。
アイム アフレイド・・・(心配で)って私、よく使うかも、と気づく。なんでもしょっちゅう心配しているからだろう。
バスは10分遅れどこ吹く風でやって来た。再びトスカーナの田園風景の中をひた走る。
途中、分かれ道で交通事故の現場が片道通行止めとなっており、バスは一旦空き地に乗り入れ、強引な方向転換をした。
警察車両も来て、警官が交通整理をしている。もしかしたらこのせいでバスは遅れていたのかもしれない。
こんな長閑な道で事故なんて、とも思ったが、フィレンツェに来てから、イタリアの車はかなり飛ばしてくるなと思っていたので、
よくよく気をつけなければいけないと改めて思う。
泊まっているB&Bの奥様は「南部の比じゃない。ナポリとかすごいよ」と言っていたけれど、実際はどうなんだろうか・・・
乗り継いだバスの車窓からサン・ジミニャーノが見えてきたときには、心がわっと浮き立つような感動があった。
ああ、中世の町並みだ。すっくと伸びる四角い塔。砂色の煉瓦の統一感。
バスはその光景に徐々に近づいていき、町の入口である城壁手前に停車した。
しっかり形の残っている中世の城壁というものを初めて目にした。
目の前には城壁に開けられた門の一つ、サン・ジョヴァンニ門。相当な高さがある。
つい気持ちが急いてしまって、帰りのバスの時間を確認するのが面倒になった。
午前中に着いたし、夕方には帰るだろうから大丈夫、と少々いい加減に済ませてしまう。
だってだって、早く門の中に入りたいではないか。