命がけ! ばさまのおつかい・冬 ~しなやかに生きる力強さ~
ニュースを見る度に「今年は異例の大雪」と報道されどうなってしまうものかと思ったが、ようやく立春まで生き延びることが出来た。
最近は雪の降り方も穏やかになってきて、少しずつ暖かい春へと向かっている。
ここ奥津軽・中里は平野なうえ、一面が田んぼで日本海からくる強い風をさえぎる物がない。
強風は積もっている雪を吹き飛ばし、雪が降らない時でも地吹雪をおこす。更に冷たい風は道路に積もった雪をつるつるに凍らせるのである。
強風のとき凍った道を歩けば20代の私でも転びそうになる。しかし「雪道怖い~」なんて甘いことは言ってられない。
免許を返納したばさまたちには吹雪だろうが、嵐だろうが関係無い。一日でも多く生き延びるために中里地区のスーパー"THE GREAT SUPERSTORE"(通称ベル)に買い物に行かなくてはいけない。
早乙女(田植えをする女性)として修行したばさまたちは手作業で田植えをする際に圧倒的なパフォーマンスを発揮できるように腰が曲がっている。
年齢とともに腰の角度は鋭くなり、そして最終的には田植え機へと進化するようにDNAに組み込まれているのだ。
普段は一般道で時速10mで歩くばさまたちも、田んぼの中に入るや否や時速30㎞と超高速で移動し田植えをすることが出来る。
ばさまたちの腰が曲がっているのは家や地域を支えてきた証なのである。
そんなばさまたちでも冬を容易に越すことは出来ない。いくら田植えが早くても、重い荷物を持って雪道を歩いて帰るのは困難を極める。
それでもばさまたちは"THE GREAT SUPERSTORE"に進出する。
進出を阻止するのは絶対に不可能なのだ。
ばさまたちは創意工夫を凝らしたそれぞれの買い物スタイルで"THE GREAT SUPERSTORE"での買い物を実行する。
ある雪の降る日、車を運転していた。
歩道があるにもかかわらず車道を歩くばさまがいた。
「なぜ歩道を歩かないのか?」と疑問に思うかもしれない。
なぜならばさまは車いすを押していたからである。
ばさま法によればばさまは地球上のどの道も車いすで走ることが許されている。
じさま同様、ばさま自身が法なのだ。
「ほっかむり」をかぶり、長けり(長靴)を履くというクラシック・バサマスタイルで、車いすに自分ではなく荷物を載せて車道を歩いていた。
私はそれまで「車いすはばさまを乗せるもの」という固定概念に縛られて生きてきた事を恥じた。
ばさまは車いすに「乗る」ことはあっても「乗せられる」ことは決してないのだと。
車いすは腰の曲がったばさまが買い物に行くのに丁度いい角度に持ち手があり、押して歩くとバランスが良い。
これはばさまが真冬の中で試行錯誤の末にたどり着いた最善の買い物方法なのである。
12月末、風が強く地面がつるつるに凍っていた日。
このような日ではいくらばさまといえども車輪のついたバックを持って買い物に行くのは難しい。
それどころかこれほど道が凍っていれば外に出ることすら危ない、ばさま泣かせの真冬日である。
さすがに百戦錬磨のばさまたちもこんな日は家でまほらっと(ぼーっと)しているのであろう...
そう思っていたその時、私は目撃した。
ソリに荷物を載せて険しいつるつるの坂道を、
トナカイスタイルで登って来るばさまを。
ソリで歩けば凍った坂道でも荷物を運ぶことが出来る。
また、腰の曲がったばさまは前傾しており前に転びやすい。そこでソリをもち後ろに引っ張られることによって絶妙なバランスを保っていたのである。
誰でも容易にばさまの真似が出来るわけではない。
長年この土地で生き続けていたばさまの熟練の経験があってこそ買い物に行くことが出来る。
実際の津軽の冬は恐ろしく厳しい。
しかし、そんな厳しい冬をたくましく生き延びてきたばさまたちは環境に適応しながら独自の買い物スタイルを作り出した。
どんなに厳しい困難もしなやか乗り越える、力強いばさまたちに感嘆するばかりだ。
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