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生成AI時代に求められる能力とは? AIとリベラルアーツ アート編

前回の続きです。

 生成AIが急速な進歩を遂げ、生成AIとヒトが共存する社会において、ヒトとしての価値を出すにはどうすればいいのか?

 そこではAIが苦手とする、未来を想起する構想力と想像力、つまり右脳の力が大切になってきます。 

 前回の記事で、生成AI共存時代に「リベラアーツ」が今以上に、重要になることを、スティーブ・ジョブズやGoogle社の例を挙げて説明しました。

 米国の大企業やビジネススクールでは、当たり前のようにリベラルアーツを取り入れていますが、それは一部のビジネスエリートだけでしょう?という感じで、いまいちピンとこないかもしれません。

 そこで今回は、もう少し身近な例として、日本での事例をもとに、リベラルアーツをどのように取り入れているかについて書いてみたいと思います。



アートとビジネスの関係性

 リベラルアーツの中で「アート」、つまり絵を描くことで、ビジネスマンの創造性を高める活動をされているホワイトシップ社を紹介します。

 株式会社ホワイトシップは、2001年に設立された会社で、アートを通じて個人や組織の創造性を育むことをミッションに、ビジネスマンから子供まで、絵を描くセッションを、20年以上にわたり提供している会社です。

 「アートの力を心豊かな社会創造へとつなげる」ことをミッションとし、ビジネスパーソンに対して、アートの実践による創造性開発プログラムである「EGAKU」を提供しています。

 同社の代表取締役である長谷部貴美さんは、「アートの力を心豊かな社会創造へとつなげる」ことをミッションとしていて、「アートが人々の創造性を引き出し、ビジネス組織の変革や経営者のリーダーシップの開発に寄与する」と考えています。

 「絵を描くこと」とビジネスと何の関係があるの?と思われますよね。

 また、「絵なんて描いたことないし、描けるの?描けたとしてそれが何になるの?」という疑問もあるかと思います。

 僕はこの「EGAKU」のセッションを以前、数ヶ月に渡って受講して、その効果を実感していますので、僕が感じた、「アートとビジネス」の関係について、「僕なりに」説明しますね。

 まず、絵を描く、ですが、誰でも描けます。絵心ゼロの僕でも描けたのですから(笑)。

 何色かのパステルを手に、四角の小さなキャンバスに、テーマ、例えば、「働くうえで大切にしていること」などを設定し、まずはワークシートを言語化するところからスタート。そのあとは思うままに、1時間ぐらいでキャンバスにパステルで絵を描いていきます。

 最初は、何を描けばいいかわからないのですが、それでいいのです。「自分の働くうえで大切にしていることは何だろう?」と思いながら、パステルでキャンバスを塗りつぶす感覚で描いていきます。

 そのうち、自分の今の心情を自分の中で呼び起こせるようになり、その心情に集中できるようになります。

 絵を描くという行為は集中を要するものです。描いているうちに、徐々に雑念がなくなり、自分の感情、ひいては自分自身に向き合いながら、絵を描くことに没頭でき、30分も経てば、「絵」がキャンバスに描かれています。

EGAKUで描かれた参加者の絵

 これらが「EGAKU」に参加したビジネスパーソンが描いた絵です。

 絵を描き終わると、絵のタイトルをつけて、参加者全員が、お互いの作品を鑑賞し合い、その後自分の描いた絵の説明を持ち回りで説明します。


絵を描くことで得られること

 僕が感じた「EGAKU」セッションの素晴らしさは、以下になります。

1.創造性の開発と表現力の向上
 シンプルな効果として、絵を描くという創造性を要する体験を通じて、ビジネスにおいて新たなアイデアや革新的な解決策を生み出す力が養われていきます。「絵を創造する」ことが自らの創造力の喚起に繋がります。

2.コミュニケーションの深化
絵を描いた後に、参加者全員が自分の絵について説明し合います。絵を通じて、内なる自分の想いを語る事により、普段オフィスでは知り得なかったその人の感情や考えを共有・理解できるのです。ゆえに、経営陣同士やチーム内の相互理解が深まり、組織に協調性が生み出されます。

3.理屈ではないダイバーシティの理解
EGAKUのセッションで参加したビジネスパーソンが描いた絵は、全て違う絵です。まさに多様性の塊ですね。お互いの絵を鑑賞し、コメントしあうことで、左脳でなく右脳でのダイバーシティの観念が産み出され、柔軟な考え方を身につけるきっかけに繋がります。

4.自分と向き合える(内観)
 ビジネスマネージメントは、究極的には、自分をマネージすることですが、そもそも自分が何者かわからない人が多いですよね。テーマを想起しながら絵を描く事に集中することで、内なる自分、本当の自分に向き合えることができます。これを内観と呼びますが、現代社会では大切なことです。

 たった1時間、絵を描くことだけでも、これだけの効果があるのです。こうしたことは、全て右脳基点で得られる事であり、従来の左脳教育では決して得られない、大切なことだと僕は感じています。

経営とアートー美意識の大切さ

 EGAKUの例からも分かるように、経営・ビジネスにアートはとても役立つのですが、よく「経営とアート」の文脈で語られる「美意識」についても、少し触れておきたいと思います。

 さて、経営における「美意識」とは何でしょうか?

 見た目の美しさも、もちろん美意識です。

 前回、スティーブ・ジョブズの美的センスがAppleの製品やサービスのDNAとなっていることを説明しましたが、美意識とは見た目の美しさだけを指すのではありません。

 企業におけるビジネスの美意識とは、美しい思想であり、企業ポリシーであり、製品やサービスのあり方までを指しています。

 それは人として「美しい」と感じる意識をビジネスのあらゆる分野に徹底する事です。

 消費者のことを考えずに、自社の利益だけを追求する企業哲学は、美しいでしょうか?美しさに欠けますよね。美しいとはそういう意味です。

 複雑な商流を排除し、D2Cで消費者に直販し、消費者の声をリアルタイムに拾いつつ、製品にダイレクトに直ぐに反映するといった企業活動のプロセスも美しいと言えます。

 要は、美しさ、とは、自然の摂理に沿ったもの、であり、その本質は、シンプルそのものです。

 何を「美しい」と感じるかは、多種多様で正解はありません。

 ただ、今の時代、社会的な価値を持ち、自然摂理や法則に準じていて、至ってシンプルなものを、人々は「美しい」と感じるのではないかと、僕は想っています。

 このシンプルで自然体で社会的価値の高いものを「美しい」と感じることが、ビジネスには必要であり、そのために経営に「アート」の感覚が必要と言えます。

自分と向き合うことの必要性

 EGAKUで得られることの1つに自分と向き合えることだと説明しましたが、この「内観」すなわち、自らを観察し、理解することは、悩める現代社会では大切なことです。

 それがなぜなのかを説明しますね。

 生成AI共存社会では、左脳=論理的思考能力で人間を超えたAIと生きていく、という、人類史上、初めてのことを、僕たちは、これから経験することになるでしょう。

 その時、僕たちは、どのようなことを考えると思いますか?

 おそらく、ほとんどの人は、「人間の価値とは何か?」その先に、「自分自身の価値は何か?」を自分自身に問い始めることでしょう。

 生成AIに仕事を奪われる、ということは、見方や考え方を変えると、自分の代わりにAIが仕事をしてくれて、自分は遊んで暮らせるので幸せとも言えますね。

 でも、僕は、特に勤勉な日本人には、社会で仕事をしなくていい自分、を受容できないと思っています。

 なぜなら、承認欲求が満たされないからです。

 社会から必要とされていない自分を受け入れることは、現代社会の生き方に慣れてしまった僕たちには、厳しいのではないでしょうか。

 そんな時、僕たちは、必ずこう考えます。

 ・AIに取って代わられる僕たちは一体何者なんだろうか?
 ・AIが社会に存在する中で僕たちの生きる意味って何なのだろうか?

 こうした時、まずしなければならないこと、それは、「自らを知る」ということです。

 なぜなら「自分は何者なんだろうか?」という問いの答えは自分の中にあり、まずは、その答えを探さなければならないからです。

 この自分で自分を知ること、すなわち内観は、先ほどご紹介した絵を描くなど、何かに集中し自分に問いかけることによって、その本質に近づくことができるでしょう。

生成AI時代には哲学も必要

 そして、その先に、ヒトが求めることは、生き方そのものです。

 その答えの一つを提供してくれるものは、リベラルアーツにおける「哲学」だと僕は思っています。

 「答えは宗教にあるのでは」という人もいますが、ニーチェの「神は死んだ」ではないですが、絶対神の言うことが唯一の生き方と言う概念は、僕はあまり好きではありません。

 やはり、自分とは何か?どう生きるべきか?は、絶対的な存在に教えられるものではなく、自ら考えるべき、だと僕は思うのです。

 生成AIと哲学は、深淵なテーマです。

 欧米の生成AIのエンジニアと話をしていても度々哲学の話になるのですが、話が長くなるので次回にします。

 次回は、リベラルアーツの中でも、僕が特に大切だと考えている、哲学が、どうして生成AI時代に必要か、そしてどのように関係するのか、について書きたいと思います。




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