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ベルギーの欧州企業で4か月働いてみて感じたこと
駐妻としてベルギーにやってきて、現地の大学院を卒業し、今年9月から現地の欧州企業でFP&Aとして働き始めました。4か月経った今、感じていることをまとめてみます。
総合的に今回の転職に満足
業務内容
ベルギーにある工場のFinance teamでcontroller (FP&A)として働いています。担当業務は、年次予算策定、月次決算(P&L作成、配賦)、予実分析、修繕費管理、プロジェクト予算管理です。
応募時にジョブディスクリプションに書かれていた内容と担当業務に違いはなく、想定通りでした。多少の違いはあれど、これまでに経験したことのある業務なのでキャッチアップにはそれほど苦労しませんでした。
ものすごく経理の仕事が好きという訳ではないのですが、安定して働き続けることが最優先事項なので、そういう意味で会計領域で一貫性のある経験が積めるのはよかったです。
待遇
適正な給与をもらうことができています。額面で言うと過去最高を更新できたのですが、税率や物価を考えると日本で働いていたときと同じくらいの生活の余裕かなと思います。日本にいたときと比べて物欲が刺激されることがあまりないので特に不満はないのと、働く時間は減ったので納得しています。
働き方
私が職場を決める上で重視しているのが働き方(特に労働時間)です。これまで日本では月の残業時間が130時間を超え、インドでは週6日で働いてきて、心身ともに健康を害してしまいました。さらにこのような働き方は仕事に全てを捧げられる健康な人のみを想定しており、インクルーシブネスから程遠いなと問題意識を感じていました。このような問題意識を持ち社会に変革を起こすために大学院で社会学を学んだわけですが、私が理想の働き方が実現できる会社に転職することも個人が起こすことのできるアクションの一つだと考えて就職活動をしました。
働き方は期待していた通りで、大満足です。マネジメント層は必要に応じて残業をしたり休暇中にメールチェックをしたりしていますが、非マネジメント層は基本的には残業時間はかなり少ないです。私は4か月間残業ゼロです。残業する日があっても翌日移行早く帰ることができるので、メリハリがある働き方ができています。
このような働き方であれば子育てとも両立できるのではないかという希望が持てます。周りも同じ働き方なので、残業をしないことで同僚に後れを取ったり、迷惑がかかったり、仕事にコミットしていないというシグナリングになってしまうのではないか…といった不安がないのが良いなと思います。逆に少し残業をして急ぎの仕事を終わらせると、仕事へのコミットメントを示すことができます。
社風
穏やかな社風で居心地が良いです。感情、欲望をコントロールできない人がいないので、安心して働くことができます。以前、怒鳴ったり、不機嫌になったり、セクハラや性差別的な発言をするような人たちと働いていたのは異常なことだったのだな、と改めて感じました。
マネジメント層とも気軽なコミュニケーションが多く、フラットな組織だと感じます。
他には、バリバリ働くよりもプライベート重視な人が多いです。
ジェンダー平等
ジェンダー平等が完全に達成された国、組織はないという認識ですが、これまで働いた会社と比べると確実に平等に近づいています。
女性管理職が多い:私は今回初めて女性の上司を持ちました。品質保証や開発など技術系の部署にも女性の管理職がいます。課長レベルまでは女性が多くいるものの、部長以上になると明らかにジェンダーバランスは男性に偏っており、まだまだガラスの天井は存在しているようです。
年上の女性が多い:長く勤めて定年を迎えようとしている女性も多くいます。結婚・出産していない人もいれば、子供を育てながら働き続けている人もいます。ロールモデルの存在は私にとって重要で、子育てと仕事を両立できるかもしれないと感じ子供を持つことについても前向きに考えられるようになりました。
様々なタイプの女性がいる:女性管理職は一定の理想(抜群に仕事ができ、穏やかで、謙虚で、しなやかにコミュニケーションが取れる、etc.)を押し付けられがちです。日本で「女性活躍」に当てはまる女性はこのタイプが非常に多いと感じます(例:南場智子氏 https://www.youtube.com/watch?v=rjHd5X0TLjA)。逆に言えば、この理想に当てはまらないと、「気が強い」「性格に問題がある」などと見られ、昇格しづらくなっているのではないでしょうか(もちろん女性の昇進を阻む壁はこの限りではありませんが)。ベルギーで複数の女性管理職を見て、男性と同じで様々なタイプがいるし必ずしも完璧とは限らないのだなと感じました。同時に、日本の職場における男女の非対称性に改めて気づかされました。
昇格の可能性
現在のところ、チームの平均年齢が高く若手~中堅層は私一人なので、数年後にファイナンスマネージャーに昇格できる可能性はありそうだなと感じています。業務の全体像を掴む、マネジメント層からの信頼を得る、他部署への説明力・交渉力を身に付ける、部下に残業を要求できない環境で優先順位を付けて業務を回す、現地語(オランダ語)、あたりが課題かなと思います。
今後の課題
文化の壁
ベルギーでベルギー人と働くことを通して、自分が日本人であり、日本の文化を内面化していることを実感しています。日本で生まれ育っているのでそれ自体は当然のことであり無理に変える必要はないと理解していますし、基本的には誇りに思っています。
しかし、「年上の人・男性に対して必要以上に遠慮してしまう、気を遣ってしまう」点をアンラーンする必要を感じています。これは、日本に存在する年功序列の文化、ジェンダーの非対称性から来ているものだと思っています。
他人に対してniceに振舞うことは良いことですが、全員に対して同じように対応をしたいです。同僚と比較することで、私は無意識レベルで年上の男性(いわゆる”偉い人”)に対して異なる対応をしていると気づきました。これは私の信条に反する上、FP&Aとして言うべきことが言えないようだと仕事においても障害でしかありません。
私がロールモデルとしている女性の同僚がいるのですが、彼女は誰に対しても、FP&Aとして言うべきことを言い、会社としてすべきことをする、というスタンスが一貫しています。先日、彼女にこのことを伝え「あなたのようになりたいのだけど難しいと感じている」と相談してみました。自分のパーソナリティとロールを切り離す、批判を個人的なものとして受け取らなければ怖くなくなる、というアドバイスをもらったので実践してみようと思います。言うは易く行うは難し、なのだろうと思いますが。。彼女も初めからできたわけではなくて時間をかけて少しずつできるようになったと励ましてくれたので、前向きに挑戦してみます。
言語の壁
言語の壁は思っていた以上に高いものでした。入社前に想定していなかった点がいくつかあります。
共通語が英語ではない:入社前は、ベルギー人(オランダ語話者)とドイツ人がマジョリティの会社なので英語が共通語として機能しているものだと思い込んでいました。ふたを開けてみると、ベルギー人社員の多くはドイツ語が話せるため非オランダ語話者とはドイツ語で会話しており、資料も半分がドイツ語、残り半分がオランダ語という状況でした。
英語をあまり話したがらない:上記の状況に加え、社内のオランダ語話者はあまり英語を話したがりません。平均的な英語力は非常に高く問題ないように思えるのですが、「ドイツ語の方が楽なんだよね…」と言う人が多いです。もちろんお願いすれば英語を話してくれますが、私以外全員がオランダ語話者の場では気を抜くとオランダ語に切り替わってしまいます。
インターナショナルな社員が少ない:私のようにドイツ語、オランダ語どちらも話さないという社員がとても少ないです(把握しているのは10名くらい)。そのため、”私一人のために英語を話す”という場面がとても多く、パワーバランス的にも劣勢となってしまい、会議がオランダ語にシフトしてしまうことがあります。
私はドイツ語もオランダ語も知らないため、翻訳機なしでは資料が分からず、他の社員同士の会話も理解することができません。これにより業務効率が落ちるだけでなく、コミュニケーションの質の低下にもつながっています。
これまでオランダ語(+ドイツ語)で何の問題もなく業務を行っていた人に英語を強いるのは申し訳ない(一方で私より上手なのに…と思うこともあります笑)ので、早急にオランダ語のレベルをB2くらいまで上げたいなと思っています。それまでの間は、業務上必要であれば変に遠慮せず英語で話してもらえるようにお願いしようと思います。
そしてもう一つの言語の壁は私の英語です。社会学という言語の重みが大きい学問で英語で修士をとったので、それなりの運用能力はあると思うのですが、いまだに英語には苦労しています。特に会議のファシリテーションや予実分析の内容を説明する時など、拙い英語だなと感じます。なにより、そのような英語への不足感、不安が、自分の能力を100%発揮できない要因になっています。
この悩みは今に始まったことではないので、既に自分の中で対処法が確立しています。それはシンプルに「英語力を伸ばし続けることで自信をつける」です。再就職後しばらくは仕事で英語を使っているのだから特に業務外での努力は要らないだろうと思っており、見事に英語力が落ち、同時に自信も失いました。最近は、車通勤の際にChatGPTと会話の練習をするようにしています。業務上使う英語も限られているはずなので、トピックを絞った練習も取り入れようと思います。
英語、オランダ語どちらも学習し続けなければならないのは負担が大きいですが、その他の面ではベルギーで働くメリットが大きいので今のところは納得しています。
うまくいっていること
最後に、自分なりにうまくいっているなと感じていることも書き留めておきたいと思います。
知識、作業の正確さなどは問題ない
上司からの評価は良いと思う:「期待以上の働きをしてくれているし、もっとできると思うから色々教えていきたい」と言ってもらえました。
同僚と積極的にコミュニケーションを取り、職場に馴染むことができた:同じチームのメンバーとランチやコーヒーブレイクをとるようにしています。仕事では直接関わらない人とも、積極的に挨拶や会話をしています。
振り返ってみると、会社や国が変わっても、得意な部分、苦手な部分は変わらないのだなと思います。業務の理解が早いのと、基本的に誰とでも良好な関係が築けるのは強みかなと思います。今後は、ハードスキルとしては言語スキル、ソフトスキルとしては対マネジメントのコミュニケーション・プレゼンスキルを改善していきたいです。