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【挿絵6枚★】"皿" になってくれませんか?_2/5  ~人と話すのが苦手な人へ贈りたい、おかしなスイーツ系BL~

 
「…俺は菓子を作るのも好きだが、食べるのが一番好きだ」

僕の目を見て話を切り出した後、彼の静かな眼差しはテーブルの上に向けられた。
「最高の一皿を味わいたい。
 ケーキ単体だけじゃない。理想とするシチュエーション、その空間が完成されたひとつの作品のような…」

話し始めても、Bさんの表情はあまり変わらなかった。
けれど、言葉の端々から高い理想を持ってケーキ作りに臨んでいることが伝わってきた。
だから、こんなに綺麗でおいしそうなケーキが作れるんだろうと、お茶受けとして出されたガトーショコラを見る。

 
「それには主役を引き立てる食器も重要になる。
 色々試してはみた…
 だが、満足のいくものをまだ、見つけ出せていなかった。」
彼はそこで言葉を切ると、なぜか僕をじっと見た。

「…君がケーキを選んでいるのを見た時、色んなイメージが湧き出してきた。
 確信した。
 君が俺の皿に相応しいと…!」

Bさんはなにか天啓を受けたかの如く、熱をこめて語りきった。
だが、僕は彼の言ったことがよく分からなかった。

(皿に、相応しい………???)

どういう意味だろう?
皿…
なにか最近流行ってるものとか?
そういうものには、単語だけ聞いても想像できない場合もあるし。

「あ、あの…すみません。ちょっと意味がよく、その、分からないんですが…
 えっと、すみません僕、流行とかに疎くて」
「?…いや、俺の言ってることは流行るわけがないことだが…」
「っぁ、あっ、す、すみませんっ…!」
不思議そうに答えた男に対し、僕はまたやってしまったと焦った。

僕は、多くの人と思考回路が少しズレているらしい。
そのせいか相手の想定外の受け答えをしたり、たびたび会話を噛み合わないものにしてしまう。
噛み合わない会話、コミュニケーションは相手をイライラさせる…
僕はBさんが短気でないことを祈りながら、様子をうかがった。
彼は特に表情を変えることなく、何故かガトーショコラに手を伸ばしてきた。

「ガトーショコラは苦手だったか?」
話しながらBさんは、ガトーショコラをフォークでひと口大に掬った。
そのまま自分で食べてしまうのかと思ったが、違うようだ。
「ショコラ系が好きなのかと思ったんだが…」
(…もしかして、僕の注文から推測してくれたんだろうか…?)

「いっいえ、好きです…」
「そうか。なら、遠慮せず食べてくれ。」
無骨な男はそう言ってずいっと、フォークに乗ったガトーショコラを僕に差し出した。

アクセントにかかっているラズベリーソースがキラキラと瞬き、
カカオの香りが、”さぁ、食べて”と誘ってくる。
ただ…

(こ、れ今…いわゆる"あーん"の形になっているよな…?)
さすがに初対面の人とするには、躊躇せざる得ない共同作業だった。
いや、初対面うんぬんじゃないな。親しかったとしても、自分のような暗い人間がするのは図々しいというか場違い感がある行為だ。

「……………、……!」
ど、どうしようと目線を彷徨わせていると、真剣そのものといったBさんの顔が目に入った。
そこには、からかいも恥じらいも一切なかった。
僕が連想したしょうもない構図など、全く頭にないであろう表情だった。

(…………、これは…きっと、緊張してる僕へ向けたBさんなりの思いやり、なのかも…)
相手の気遣いを無下にするわけにはいかないだろう。
そう思い至った僕は、素直にしっとりした生地を口内へ迎え入れた。
 

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