使えなかったテレフォンカード
私が小さい頃、携帯電話はなかった。
用事があったら、使うのは公衆電話。
私の家は共働きで、幼い頃は祖父母に育てられたので、1番末っ子の私はいつも2人に甘えていた。
特に祖父は、毎日車で運転し、自宅に祖母が作ったご飯を運んでくれたので、帰宅後は毎日一緒。人一倍私の事を可愛がってくれた。
私は雨の日や、風の日はもちろん、友達の家に遊びに行った時も、祖父に送迎してもらっていた。
公衆電話から祖父に電話して。
ある時、大雨が降った。10円玉を忘れた私は、初めて自分で帰った。びしょ濡れになった。
帰ったら、
大丈夫か?!と心配そうに祖父が聞いてきた。
私は
「おじいちゃんが迎えに来んかったから濡れた。」
と言って、拗ねた。祖父は、困ったような顔をしていた。
それから、数日後、祖父がくれたのがテレフォンカードだった。きっと、「これでいつでも迎えにいけるよ」って意味だったんだと思う。祖父から貰う、はじめてのプレゼントだった。
でも可愛くて、可愛くて、気に入りすぎて、、、
私は結局1度も使えなかった。
そうしたら、、、なくしてしまった。
家中探した。
学校中探した。
でも、見つからない。
おじいちゃん、ごめんね。
涙が出た。いつも、自分の事ばかりで、人に甘えてばかりの私に、バチが当たったんだと思った。
それから、少しずつ自分で帰るようになった。
甘えてばかりは、もうやめよう。
そうしたら、ある時、帰り道に
テレフォンカードが落ちていた。
駆け寄って、表を見ると、確かにあのテレフォンカードだった。
大事に大事に使わずにしまっていた、あのツルピカのカードは、傷がついて、2つ使用済の穴が空いていた。
きっと、誰かを助けていたんだ。
そう思う事にした。
大事なものは、使わないと、意味がないのよ。
そんなメッセージだったのかもしれない。
それから、私はそのカードを持ち帰り、裏に名前と住所を書いた。
もう二度と無くさないように。
それから20年。住む場所も、何もかも変わったけれど、私の側にずっとあのテレフォンカードはある。
結局また大事すぎて、使えないままだけど、
おじいちゃん、いつか天国に行ったら、これを使うから、その時はまた迎えに来てね。