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論文出版:Sentence semantic relations and second language text memory: An approximate replication study
外国語教育メディア学会の機関誌 Language Education & Technologyの第56号 に以下の論文が出版されました。(発行自体はだいぶ前のようですが,手元に届いたのが最近でした)
Nahatame, S. (2019). Sentence semantic relations and second language text memory: An approximate replication study. Language Education & Technology, 56, 1-22.
本論文は,計算言語学的に評価される文の意味的な関連度が,英語学習者のの文章記憶にどのように影響するのかを実証的に検討したものです。論文タイトルにある通り,過去の研究の一部を追試したものになっています。
過去の研究というのはMLJに出版したNahatame (2018) なのですが,この研究では文と文の因果的なつながりが強いほど英文は記憶し易く,同じく意味的なつながりが強い場合も記憶しやすいが,その傾向は英文読解力の高い学習者で顕著であるというものでした。因果的なつながりは先行研究でも割と多く検証されているので,実際にはこの研究の主眼は意味的な関連の影響の検証にありました。
なので,その主眼であった英文記憶への意味的な関連の影響が,実験デザインを多少変えた場合でも見られるのかを追試したものが本論文になります(具体的には,因果的な関連を協力者内要因から協力者間要因に変えています;このことにどのような意味があるかは論文をお読みください)。結果として,過去の研究と同じく意味的な関連の英文記憶への影響とそれが英文読解力の高い学習者でより顕著であることが示されました。
ここ数年は,計算言語学的に評価される文の意味的な関連が英語学習者のリーディングの認知プロセスとどのように関わっているのかということをメインに研究を続けてきました。しかし,いくつも研究を行っていくうちに,意味的な関連は因果的な関連などと比較して一貫した影響を見出すのが難しく,文章の要因(文の数など)や実験手法(自己ペース読み,視線計測,再生課題など)によって複雑に変化するというのが最近の自分の中での結論でした。ただ,そんな中で,2つの論文を通して一貫した意味的な関連の影響を示すことができたのは意義のあることだと思っています。まだまだ研究を蓄積し,いろいろと解決すべき課題もありますが…。
今回この研究を国内のどこかの学会誌に論文投稿したいと考えた時,本研究は計算言語学的な手法を援用していることから,英語教育分野の研究者でありながら計算言語学や自然言語処理に精通している方に多く読んでもらいたい,そのような方が査読者となった時にどのようなコメントをもらえるのか知りたいと思い,国内では決して多くないそのような研究者を読者層に持ち,かつ査読者にしてくれそうなLanguage Education & Technologyに投稿することとしました。実際,査読コメントの中で長くはありませんでしたが,計算言語学的な観点からの指摘・提案をいただいたので,学会誌選択は正しかったのかなと思います。
そして,何とか2019年中に単著の英語論文を出版できてホッとしています。