研究発表:『英文読解中の文から文への読み戻り―視線計測を用いた検証―』@全国英語教育学会第45回弘前研究大会
2019年8月17日(土)から開催される全国英語教育学会第45回弘前研究大会にて,「英文読解中の文から文への読み戻り―視線計測を用いた検証―」と題した研究発表を行います。以下が発表要旨です。
英文読解をしている際,現在読んでいる文からその前の文へと読み戻ることがある。本研究はそのような読解中の文から文への読み戻りに着目し,それ
を視線計測によって検証することで,読み戻りがどのような頻度や要因によって起こり得るのかを明らかにすることを目的とした。難易度の異なる2文1
組の英文を英検の過去問から選定し,それらを大学生・大学院生34名にコンピューター画面上で読解させ,2文目から1文目への読み戻りを視線計測によ
り記録した。データ分析の結果,文間の読み戻りは読解中に約30%の確率で起こっていたが,英文の難易度による読み戻りへの影響は見られなかった。
データを個別に見ていくと読み戻りの頻度は学習者によって大きく異なっており,文間の読み戻りはテキスト要因よりもむしろ学習者の個人差に関わる
事象である可能性が示唆された。これらの結果に基づき,英文読解研究及び読解指導への示唆を述べる。
本発表の起点は,第二言語(L2)の読解研究では文中の語彙処理,統語処理を検証したものが多く(レヴューとしてRoberts & Siyanova (2013) やConklin et al. (2018) など),複数の文から構成される文章レベルの理解を検証した研究が少ないというところから端を発しています。
文章理解 (discourse processing) の視線計測研究は母語読解の分野でもあまり多くはないのですが,視線計測の第一人者であるRaynerの論文(Rayner et al., 2006)でも "the time is ripe for more comprehension studies to use eye movement data to understand discourse processing.” (p. 252)" と述べられていることからも,不可能・不必要なものではなく,もっと行われていくべきものだと言えます。
文章理解の視線計測研究では,単語や句ではなく,1文全体が分析対象となることが多く,ある文からとその前にある既読の文へ読み戻ることも指標の1つとして扱われます(レビューとしてHyönä et al., 2003)。L2で行われた若干数の文章理解×視線計測の研究でもそのような指標が扱われているのですが ,そもそもいわゆる注視時間やサッケード長,逆行割合のように文間で読み戻る頻度は「だいたいこのくらいが平均」という基準は分かっていません。また,文間の読み戻りがテキスト要因や学習者個人の影響をどのように受けるのかということも分かっていないので,それらを探索的に調査し,その結果をもとに文間の読み戻りという現象を読解研究や読解指導のなかでどのように捉えていくべきかを議論する,というのが本発表の趣旨となります。
今後の研究に向けての前々段階のような基礎的な発表ですが,英語による文章理解,視線計測,あるいは英文の難易度評価などに興味のある方は発表にお越しください。
なお,発表後にはこちらに発表スライドへのリンクを載せる予定です。
*2019年8月17日追記:発表スライドへのリンクを貼り付けました。
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