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『読書科学』第62巻(第3-4号)に論文を出版しました

論文について

『読書科学』第62巻第3-4号に以下の論文を出版しました。

名畑目真吾. (2021). 「年少者向け英語読み物教材における文章の結束性ー
コンピューターツールによる分析に基づいてー」. 読書科学 (The Science of Reading), 62(3-4), 146-159. https://doi.org/10.19011/sor.62.3-4_146

本論文は,年少者向けに書かれた英語読み物教材129冊を対象として,文章の結束性の特徴によってどの程度その難易度(読みやすさ)が予測されるのかを検証した研究になっています。基本的な考えやアプローチは2020年に小学校英語教育学会誌に出版した論文と同じですが,本研究ではTAACO (the Tool for the Automatic Analysis of Cohesion) と呼ばれる結束性の分析に特化したツールを用いて,より多様な結束性の特徴を扱った研究になっています。

分析の結果,文間の動詞の重複,文間の意味的な関連度(LSA),時間や順序に関する接続語句,文章内の内容語の繰り返しの4つの指標によって,読みやすさの分散の約37%が説明されたという結果が得られました。それぞれ理論的にどういう意味があるかは論文を読んでいただきたいと思いますが,興味深いのはこれら4つの指標はTAACOが想定している結束性の特徴のカテゴリー(語彙重複,意味的関連,接続語句,Givenness)に対応しているということです。本研究ではそのようなカテゴリーから意図的に1つずつ指標を選定したわけではなく,相関や多重共線性などを考慮して指標を探索的に選択した結果,自然に個別のカテゴリーから1つずつの指標が選定されました。なので,論文の主たる焦点ではないのですが,TAACOでは似ているようで異なる結束性の側面をうまく峻別して指標を算出しているということを,実際のデータ分析を通じて感じました。

読書科学について

『読書科学』は日本読書学会の学術誌で,ホームページには以下のような説明が掲載されています。

本誌は英語表記の“The Science of Reading”に示されるように,読書活動のみならず,読む・書くといったディスコース研究全般,国語教育,リテラシー研究など多くの研究領域が対象であり,間口は非常に広い学術雑誌です。これまでも英語教育,日本語教育,言語心理学,文章心理学,認知科学,ICT教育,言語に関する教育工学など,幅広い領域の研究を掲載してまいりました。また,基礎的な研究だけでなく,実践研究も大歓迎です。https://www.readingassoc.site/blank

このように,読むこと(リーディング)の研究だけでなく,書くこと(ライティング)の研究や,国語教育だけでなく英語や日本語教育の研究も範囲とする間口の広い学術誌になっています。

ただ,大枠で言えば,読むことに関して教育学的な側面を扱う研究と心理学的な側面を扱う研究の2つが多い雑誌です。役員一覧を見ても,概ねこれらの研究分野で活躍されている先生方から構成されていることが分かります。私自身も博論執筆の際にいくつかこの雑誌に掲載された論文を読んだことがあり,最近の号でも視線計測やコーパス研究など個人的に興味のあるトピックの論文も出版されていました。(過去の論文はほとんどJ-Stageで公開されています)

今回掲載させて頂いた論文は英語教育の文脈で語られてはいますが,文章の結束性という概念は英語教育研究で取り上げられることは少なく,もともとは認知科学や文章理解研究の分野で長らく扱われてきたトピックです。そのため,英語教育系の学術誌ではなく,そちらの専門家が多いこちらに今回は投稿させていただきました。実際,査読においても文章理解研究の観点から非常に専門的なコメントを多くいただきました

『読書科学』は国内(少なくとも英語教育系の雑誌)では珍しく,国際誌でメジャーな投稿システムのScholarOne Mansucriptsを使っています。そのため,査読を受けて修正,再投稿を繰り返すシステムです。個人的にはこの方が確実に論文の質が良くなるので良いと思いますし,通常このシステムの場合は出版までの時間が長くなるのが難点ですが,読書科学は投稿から査読結果の返却までおよそ1か月(この期間はウェブサイトに明示されています)とスピーディーです。また,発刊後に間もなくJ-Stageで公開されるので,より多くの人に読んでもらうことができます。

英語教育分野の方々,特にリーディングやライティングを研究されている方には,ぜひ投稿をお勧めしたい雑誌です。学会員(年会費9000円)にならないと投稿できないというのが難点ではありますが,リーディングを研究のフィールドの中心としている方にとっては良い学会だと思います。



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