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安心して下さい 【旅日記】

「すいませーん!」

背後から、若い女性の声

はい? と、オイラ

「えっとぉ しゃしん とってもらえますか?」

はひぃぃ!?

「はい カメラ これで」

ひぇぇ・・ 


■ なぜか

わたしに隙があるのだろうか、それとも私がカメラを提げているからなのか、旅先の撮影スポットで、記念写真をお願いされることが多い。

私自身は、記念碑の前で
「はい チーズ」
と、記録に残すことはあまり好きではない。「〇〇滝」と書いた看板より、滝そのものを記憶にとどめておきたい。写真を撮る行為は、記録というより観察するための行為。細部まで「じーっと」観ると、意外な発見があるのだ。撮影はその手助けをしてくれるのだ。

こういったわけなので、写真を頼まれると、景色を重視するのか、依頼者の笑顔を重視するのか、悩みながら撮影することが多い。

なんで急にこんなことを言いだしたのか?
土曜日の朝、のんびり日経新聞を読んでいたら、懐かしい旅先が載っていた・・・30年ほど前のこと、思い出したのだ・・

その年は、夏休みを使って、青森への旅をしていた。
そして、最初に訪れたのが・・


■ ここは

冒頭の場面に戻る。

「しゃしん とって もらえますか?」

いや、あの、写真 頼まれれば撮りますよ。
嫌いじゃないし

でもね

あのね


ここはね


露天風呂なの


混浴の

いくら私に隙があるのか、知れませんが、
若き男性(当時)に、若き女性(2人組)が写真を頼む場面じゃないよね。



■ 敵は

脱衣場が「おどの湯」「おがの湯」って分かれていたから、油断したじゃないの。混浴だったのね。

妻は、脱衣場から出てきていない。脱衣場は別でも、湯船が一緒という事に気づいていないらしい。どう反応するかな、ふふっ

てな事を考えて、露天風呂エリアを真っ裸まっぱでウロウロしていたから、ぼーっとしていたと思う。隙があったのだ。

「すいませーん!」

びくっとして、振り返ると

青空の下、木製の湯船、家庭用の湯船くらいの大きさ。その湯船には、源泉と思しきお湯がチョロチョロと注ぎこみ、湯けむりが立っている。その湯船の中に、女性が二人。

「しゃしん とって もらえますか?」

差し出されたのが、防水の「写ルンです」(若い方、ご存知ですか?)

目の前に、さっとモノを出されると、つい手を伸ばしちゃうよね。気づくと、わたしの手のひらには、「写ルンです」が・・

■ だから

カメラ(写ルンです)が手元に来る前から、私の手は塞がっていた。
タオルを押えるために・・

いや、だから、あの


頭の中の「丹下段平」が叫ぶ

ジョーーーーー!!!!

落ち着くんだ、丹下くん、今はお前の出番じゃない


ふぅ・・


丹下くんは、立ち去ってたちさってくれたようだ。


■ 安心してください

何も、はいてません。

旅先の混浴では、女性の大胆な所業にびっくりすることが多い。ドギマギしているのは、男性諸氏ばかり。

見えそうで見えないから、覗きたくなるのだ。

がっつり見える場合は、思わず無言で、目を伏せてしまうのだ。

それを分かってらっしゃるのか、ここでは何も履いてないのに安心されてしまうのだ。世界の七不思議だ。


まぁしかし、後にも先にも、真っ裸まっぱで写真を撮った経験は、この時だけだ。



でも、男性が、カメラを持って湯船にいたら、
大騒ぎだろうね。


どこにも出歩けない真冬の早朝、ポカポカとした室内で
解放感あふれる真夏の太陽を思い出す。


安心してください 出歩いてもいいですよ。


と、ならないかなぁ



もうすぐ春ですね。



(おしまい)


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