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ワインを使ったワインの希釈という醸造手法

ワインのアルコール度数の調整が課題です。厳密にいえばアルコール度数というよりも収穫時のブドウの熟度の設定が課題になっています。この点に関してはここ数年のワイン造りに関わっている方であれば、おそらくいらっしゃる国や地域を問わず肌感覚で同意していただけるのではないかと思います。

気象変動や地球の温暖化は言われるようになって久しいですし、ワインの酸落ちや突出した果汁糖度の問題は以前からも指摘はありました。高すぎるアルコール度数を下げるための技術開発は以前からなされていますし、欧州における加水の認可に関する議論は続けられています。

ニューワールドに分類される国や地域では比較的受け入れられる傾向にある加水による果汁糖度の調整は、オールドワールドでは一転して強い拒否反応を示されています。実際問題として加水による果汁の希釈はワインのバランスを崩す要因です。過熟と言えるほどに熟度が上がる地域であればそれでもまだどうにかなりますが、熟度の上がり方がそれほどでもない地域ではこうした希釈による悪影響はより明確に表れやすくなります。そこで検討されているのが、ワインによるワインの希釈です。

同じ年に同じ畑から収穫された同じ品種のブドウを使用すれば、収穫の日付が離れた2種類のワインを混ぜ合わせていたとしてもワイン法上は全て同一のワインとして扱われます。この運用規定を利用して、ラベル上の表記に影響を出さないままワインの調整を行えるのがこの手法の特徴です。さらにこの方法では栽培手法や植栽品種などを変更する必要は原則としてなく、手間やコストをかけずに済む点も大きな特徴といえます。

一見すると単純に2種類のワインを造って混ぜるだけと単純明快で簡単な方法に思えますが、実際にはそんなことは全くありません。この記事ではこの手法を採用する際に考えなければならない点や課題について見ていきます。

この記事はNagiと一緒に学ぶオンラインコミュニティ「醸造家の視ているワインの世界を覗く部」に投稿された記事の一部を再編集したものとなります。
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