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大きな企業にはビジョンが育ちにくい構造的な弱みがある、という仮説
最近読んだビジネス書「誰もが人を動かせる!」の中に、リーダーシップの獲得には“外向きの欲”が必要、という考え方が記載されていた。“外向きの欲”とは、「①自分がやりたいこと」「②実現が周囲の人にとって喜ばしいもの」「③実現に周囲の協力が必要なもの」の3つの条件を満たすものである。
この“外向きの欲”における「周囲」を、「世の中」や「世界」と拡大して考えると、これはそのままビジネスにおける“夢”や“ビジョン”と言った言葉に置き換えられるだろう。こういったビジョンはリーダーシップの根源となるだけでなく、ビジネスの構築そのものに非常に重要な要素である、ということは、おそらく疑う余地はない。
最近働いていて思うことは、大きな企業というものはこういったビジョンを持った人間を育てるには不向きな構造なのではないか、ということだ。理由を大きく三つ、述べてみたい。
弱み①:既にビジネスがある=所属によって欲が満たされ、それ以上育たない
ビジネスとは、本来はビジョンを達成する手段である。健全なビジネスの目的は、利益の追求ではない。利益はあくまで、ビジョンを達成し続けるために必要な資本として獲得しなければならないものに過ぎない。
しかし、既にビジネスが構築されている企業には、利益(給料)のために働いている人や、ビジネスそのものを目的として参加する人も必ず存在する。わかりやすい例で言えば、「車を作りたい」という目的を持って自動車メーカーに勤めている人。本人のやりたいことそのものは、なんら恥じることはない。一方で、この人の欲はその企業に所属しているだけで概ね達成され、それ以上は育たない。希望の部署に配属されていなくても、いずれ部署の異動が叶うという展望があれば、会社で働き続けることもあるだろう。
一方で「世の中の移動をもっと快適にしたい」というビジョンをもって、自動車メーカーに入社した場合。大企業におけるスピード感の欠如や責任範囲の狭さは、ビジョンにとって窮屈になりうる。目的意識が強ければ強いほど、転職や起業など、よりダイレクトな手段の行使を検討するかもしれない。
ビジネスが既に構築されているということは、ビジョンを目的としない人が一定数含まれ、その人の「欲」がそれ以上育ちにくい、ということにならないだろうか。
弱み②:顧客と会う機会が限られる=顧客が喜ぶ顔が想像できない
ビジョンとは、「自分が達成したい」だけでなく、「実現が世の中にとっても喜ばしいもの」でなければならない。要するに「顧客を喜ばせたい」というモチベーションである。これがなかなか実感できないということは、ピンとくる人も多いのではないだろうか。
大きな企業は、当然たくさんの人が所属しており、組織があって役割分担がある。結果として、顧客と会う機会がある人はごく僅かである。販売や調査をアウトソーシングしていると、顧客と直接会っている人が企業の中にいない、ということも十分にありうる。自分が顔も思い浮かべられない人が喜んでくれるところは、なかなか想像しにくいだろう。
一方、スタートアップや起業といった経験談、ノウハウを学ぶと、まず間違いなく「顧客と直接会う」ことの重要性が説かれている。最初の調査相手や顧客は自分の身近な人、あるいは知り合いの知り合い、といった近接な繋がりを使うことが望ましい、といった具合である。これはスモールスタートという観点だけでなく、喜ばせる相手を明確にイメージできるという点においても重要なのである。
顧客と会うことができなければ、世の中人が喜ぶことにもまた、出会うことができないのではないだろうか。
弱み③:既に市場がある=人に行動を変えてもらう必要性が理解できない
“外向きの欲”には、「実現に周囲の協力が必要なもの」という条件がある。これは言い換えれば「人の行動を変える必要があるもの」ということである。「人の行動を変える」というのは、中々ストレスのかかる行為だ。その上、他者に対する期待が裏切られた時には、本人に更なる精神的負荷が生まれる。結果として、責任感の強い人ほど「自分で何とかする」という思考に陥りがちになってしまう。
だが、ビジネスとは、究極的には「顧客に行動を変えてもらう(≒お金を使ってもらう、時間を使ってもらう、etc...)こと」が必要である。大きな企業にいると、それに気付きにくい。なぜなら、既に市場の中で一定のシェアを獲得しているからだ。それにより、今までと同じことをすれば、同じだけの利益を得ることが可能である、と考えてしまえる(もはや必ずしもそうとは言えない世の中ではあるが。。。)。そのため、「人の行動を変える」ことの必要性を理解できず、結果としてビジョンを見出すことができないのである。
新しいビジネスをおこそうと考える場合、市場のシェアを他者から奪うか、あるいは新たに市場を生み出さなければならない。そのためには「顧客に行動を変えてもらわなければならない」という、強い意識が生まれる。このことは結果的に「周囲の行動を変える」ということへのハードルを下げることになるだろう。
「既に市場が存在している」というのは、ビジネス的にはとても有利であるが、一方で「誰かの行動を変える」必要性に気付きにくくなってしまう要因ではないだろうか。
ビジョンの必要性、考えるべきこと
この仮説が正しいとしても、それは「育ちにくい」というだけで、「大きな企業にビジョンを持っている人がいない」ということにはならない。最初から明確なビジョンを持っている人や、これらの弱みを乗り越えてビジョンを育てることができる人もいるだろう。部下のビジョンを育てるコーチング、あるいは自分自身でビジョンを育てるセルフコーチングといったノウハウも世の中には存在する。
そもそも、だれもがそのレベルのビジョンを持たなければならないかというと、そうとも言い切れない。それこそ、明確なビジョンを持った人間が、集まった人々の欲や個性を活かして一つの目的を達成する姿も、十分に理想的なビジネスの形である。
だが、自分がいる企業の中でビジョンを持った人間を育てたい、あるいはビジョンを持ちたいと思うならば、こうした構造的な弱みが存在する可能性があることは理解しておいた方がいいのではないだろうか。