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こんな二人椀久見たことない! 歌舞伎座にて右近&壱太郎『二人椀久』を見ての記。
2025年になったのでnoteを始めてみました。ブログからテキスト記述に特化したnoteに引っ越ししたいと以前から思っていたのですが(もうhtmlを使うのが嫌になった泣)、新年ということでとりあえず始めてみることに。
というのも、プチ事件がありまして、それについて書きたい!と強烈に思ったからです。その事件とは? 今月の歌舞伎座で上演されている、尾上右近&中村壱太郎という踊りの上手い若手役者コンビによる舞踊『二人椀久』がすごかったこと、です。
こんな二人椀久、見たことない!
とにかくもとりあえず、舞台を見た私の感想は、「こんな『二人椀久』見たことない」です。
『二人椀久(ににんわんきゅう)』とは、長唄の踊りで、歌舞伎だけでなく舞踊界でもしばしば上演されているほどの人気演目。私も大好きな踊り(学生時代に孝玉のVHS映像を何度も見て、芳村伊十郎のカセットテープを買って聴きまくっていたほど好き)なので、数多くの『二人椀久』を見てきたつもりです。が、「こんな『二人椀久』は初めて見た」という衝撃。ビックリしました。ハイ。「こんな『二人椀久』あるんだ!」と思いました。ええ。
あまりに素晴らしいので、歌舞伎座の定額制(要はサブスク)に申し込んでいたのを幸い、何度も見に行っている最中…(追記: 結局、千穐楽も入れて8回見に行きました)。
だから、どこがどうスゴかったのか早く言え、と。えーと、スゴかった点は、以下の2点。
■濃厚な色気
■キレキレの身体能力
です。以下それぞれについて語ります。
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濃厚な色気について
まず、女形である壱太郎さん演じる遊女・松山太夫の醸し出す色気が濃厚すぎる(笑)。壱太郎さんはお芝居でも「こういう感じの女の子いるいる!」って思ってしまうようなナマナマしい女性を表現するのが最高にうまくて、同じ女形でも、たとえば玉三郎さんのような幻想的女神とか、七之助さんみたいな理想的美女とは違う、リアルな、生身の、すぐ側にいそうな標準的な女性の身体感があるんですよね。かえってエロい、ってやつです(笑)。
そんな壱太郎さんが遊女の松山太夫で、その恋人の椀久が右近くんなわけですが、この踊りの前半(特に、「♪筒井筒〜」の部分)で、二人が手を取り合って見つめ合ったり顔を寄せ合ったりしながら踊るのですが、なんというか、色気たっぷりで官能的というか、見てはいけないものを見せられているような気持ちにさせられましたね…。
まぁ、『二人椀久』は恋人同士の踊りなので、頬を寄せ合ったりイチャイチャしたりとかそんな振付は普通にあるのですが(振付師によって違いがあるとしても)、通常では、あくまでも「踊りの振りとして」大人しく品良くサラッと行く感じなんですね(まぁ、古典芸能なんで)。
でも、右近&壱太郎の恋人たちは、踊りの振りを超えたリアリティ、つまり芝居っ気があるわけです。このお二人は同世代で仲も良いそうなので、あくまでも私の勝手な妄想ですが、「ここはエロい感じでいこうぜ」「そうだねギリギリの線でいこうか」みたいな会話があったのでは…. と、勝手に妄想しました(笑)。つまり、お二人とも狙ってノリノリでやってますよね?
キレキレの身体能力について
そして、さらに特筆すべきは踊りの後半。「♪お茶の口切り〜」以降の、音楽がいきなりBPM140超えてますよね?ってほどに高速ダンスミュージック化する後半です。
右近くんの歌舞伎役者…というか、ダンサーとしての彼のキレッキレの身体能力が、歌舞伎座の間口91尺(約27.6m)のひろーい舞台さえ狭苦しく感じるほど縦横無尽に炸裂! ここまで身体を惜しみなく目一杯使って激しく踊る椀久を、私は初めて見ました。
あまり言っている人がいないのが不思議なのですが、こんなエネルギーに満ちた椀久、滅多に見られませんよ…? とにかく右近くんの身体能力がキレキレですごい。ここまでやってくれるの? 1ヶ月公演なのに? ありがとうありがとう…としか言いようがない。
4代目猿之助の踊りが大好きでそれが見られなくなってしまったことに心底落ち込んでいた私ですが、右近くんがいるなら、今後何十年と歌舞伎(の舞踊)を楽しみに生きていけると本気で思いました。それくらいパワフルでエネルギッシュな、観る者を興奮させる踊りです。
激しく踊りまくる若い二人は、正しい
ちなみに、この高速ダンスミュージックに合わせて踊りまくる後半について、「モダンに激しく踊りまくり過ぎていて日本舞踊じゃないみたい」という批判っぽい意見があるのをちょいと小耳に挟みました。が、おカド違いも甚だしいです。これは日本舞踊の会ではなく、歌舞伎というエンターテインメントの舞台なのだから、正直言って楽しくて素晴らしければ別に何でも良いのです。
それに、演目の解釈からいっても、激しく踊りまくる松山太夫と椀久というのは、正しい。
彼らが何歳の設定かはわかりませんが、まぁ若い二人でしょう。右近くんも32歳、壱太郎さんも34歳と、まだまだお若いです。そんな若い二人が高速ダンスミュージックに合わせて踊りまくるって、氷河期世代最前線のレイヴカルチャー世代の私からしたら「うんうん、そうだよね」ってめちゃくちゃ共感してしまうんですよね。
若い時って、エネルギーが余りまくってるわけですよ。しかも金も仕事もないが時間だけはたっぷりあるときたら、もう一晩中何時間も踊ってたって全く平気なんですよ。それどころか、トランスしてしまっているから楽しくてしょうがない。アルコールも入ればさらに疲れなんか全然感じない。サタデーナイトフィーバーなわけですよ(って世代じゃないから知らないけど笑)。
そんな若い人のエネルギーの昇華としての舞踊=ダンスを、『二人椀久』という演目において今回初めて実感することができた。ああ、松山太夫と椀久は、若くて、疲れ知らずで、楽しくて、ひたすら踊りまくって現実逃避して別世界にトランスしていたのだな、と。
右近くんの切ない一人芝居
そして、そんな二人の激しいダンスシーンがあるからこそ、幕切れで松山太夫がふっと夢と消え、気づけば椀久はポツンと闇夜に一人きり…という哀しくて寂しい現実がクッキリとしたコントラストを伴って際立ってくるわけで、それゆえ余計に、観客の胸を痛いほど打つのではないでしょうか。
あんなに夢中になって一緒に踊っていた松山太夫がいない、君はどこに消えてしまったの、なぜ現実世界はこんなにも辛くて寂しいの、という椀久の心の叫びが聞こえてくるような、右近くんの幕切れの一人芝居は、数分の短い時間ながらも心に切なく迫り、見るたびに涙がこみあげてきました。
右近くんの幕切れのお芝居、本当に本当に素晴らしい。海老反りになるのでみなさん拍手していますけど、そこはぐっと拍手を我慢して、彼が全身で表現する絶望を心で受けとめてリアルに感じてあげてほしい、とは思いましたが。つまりそれくらい、最初から最後まで、息もつかせぬ素晴らしい舞台でした。
と、長々と書きましたが、1月の歌舞伎座公演は1/26(日)まで。滅多に見ることができないセクシーでエネルギッシュな『二人椀久』を一人でも多くの人に見てほしいです。というか、この公演、シネマ歌舞伎にしてくれないかな…。