サッカー選手分類論
「オルンガ、カタールに移籍したんだ。」
「この選手がこのチームに移籍したんだ。」
びっくりすることもよくありますよね。多くのサッカーファンと同じように僕たち選手もSNSでJリーガーの移籍情報を知ることも多く、移籍の時期になるとドキドキしてツイッターをスワイプしてます。
僕自身、2021年に名古屋グランパスに移籍しました。
プロサッカー選手のほとんどの選手は移籍を経験します。移籍にまつわる背景には、契約年数、年俸という個人的なものから、昨今のコロナ禍でのリーグ情勢など、誰しもに影響を与える普遍的なものまであります。
そんな中、選手の”動機”に着目して選手たちの移籍を分類して考えてみようと思います。
移籍タイプを6つに分類
Ivon Carballo Badillaさんの論文(Sport migration in Costa Rica:
Motivations and Goals of Athletes’ Outflow)によると
As mentioned before, the three sport migration typologies reviewed
for this study were the ones proposed by Maguire (1996), Maguee & Stead
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(2002) and Agergaard & Botelho (2011). Each was design to improve the
accuracy of the types and its characteristics. In answer to RQ3 the
participants were categorized using the exiting types of sport migrants.
Combining all three, the types that are considered in this categorization are:
(1) pioneers, (2) settlers, (3) mercenaries, (4) cosmopolitans, (5)
ambitionists, and (6) labour of love.
RQ3. How can these emigrants be categorized based on the existing sport migration typology?
彼の論文の先行研究からは移籍する選手は、
①開拓者(pioneers)
②定住者(settlers)
③傭兵(mercenaries)
④都市遊牧民( cosmopolitans)
⑤野心家(ambitionists)
⑥愛の労働者(labour of love)
の6つに分類されるとあります。
ここからは私自身の解釈も加えて選手の分類を考えてみたいと思います。
①開拓者(pioneers)
サッカー文化のない土地に、サッカーを浸透させ、サッカーを文化にする選手を開拓者と呼びます。とはいっても、選手ではこのタイプは少ないですが、デットマール・クラマーさんは(来日時は選手では無いが)まさに開拓者でした。
現代では世界中にサッカー文化が根付いているため、なかなかイメージしづらいですよね。でもこういった方々のおかげでスポーツの万国共通化が進み、私たちは様々なスポーツを楽しめるようになったんだと思います。
サッカーだけでなく、相撲を海外に持っていった人や空手を海外へ持ってった人もこのカテゴリーで、日本発のスポーツがあるというのは嬉しいことですよね。
空手を愛する世界の空手愛好者は、1億人を超えるといいます。
しかし、東京オリンピックを最後に空手はオリンピック正式種目から外れてしまうということで、小学生時代空手を習っていた愛好者の一人として寂しい気持ちが。。
②定住者(settlers)
そのチームでずっとプレーし続ける選手を言います。
プジョル、マルディーニ、ギグス、トッティなどが挙げられます。プレー面はもちろん、精神面でもチームの柱となる選手でなければ、このタイプは務まりません。あとは、なんてったって一途でなくてはなりません!チームを心から愛し、またサポーターに愛されてそのクラブで引退を迎える。サッカー選手も憧れる理想のタイプですね。
ひとときの活躍ではなく、活躍し続ける、やり続ける、ということは本当に簡単なことではないと思います。
私の祖父も、京都で50年近くコーヒーを入れ続けています。最近体調を崩してお店は閉めていますが、元気になってまたお店を開けた時は、ぜひ一杯飲みにいってください。
③傭兵(mercenaries)
’お金で雇われて利害関係のない戦争に参加する兵のこと’
を言いますが、移籍の動機の大部分を占める割合が給料によるものである場合は、このカテゴリーになります。ヨーロッパで活躍して中国に破格の移籍金で移籍をする選手などが当てはまります。
貧困街で育ったブラジル人の少年が、家族と共にその生活から抜け出すためにはサッカーで成功するしかない。
といった話を聞いたことがあります。選手になって稼ぐことが生きていくための道だとしたら、そういった移籍を選択した選手を批判することは誰にもできませんね。
それぞれの選手がサッカーをどのように捉えているかということなんだと思います。
④都市遊牧民(cosmopolitans)
移籍国の文化を通した人生経験を求めて移籍をする選手を言います。
「日本に住んで、この国の文化を学ぶために日本のクラブに移籍したい!」パトと食事に行った時に、彼がこう言っていたことを思い出しました。
子供をグローバルな感覚を持った子に育てたいという教育方針があり、国を選択して移籍する選手もいます。
望んだ場所に移籍をすると言うことは、選手としての能力が無いと出来ないことだと思います。また移籍先の国にサッカー以外の面も含めての得られる経験がないといけません。
⑤野心家(ambitionists)
野心や野望を抱き、移籍をする選手を言います。目的はそのクラブでの成功や、その先のステップアップです。若い選手に多いですね。
僕もドイツ・1.FCケルンに移籍した時は、給料は日本でいただいたオファーの契約より低いもので、ブンデスでの活躍という野望を抱いての移籍でした。当時大学も卒業していない22才。
通訳も付いていない、住む家も決まっていない、キャリーケース一つでフランクフルト国際空港に降り立ち、スキンヘッドのドイツ人に連れられ、ケルンまで2時間の無言ドライブ(当時はドイツ語も英語も話せなかった)をしたのが懐かしいです。まさに野心家でした。
⑥愛の労働者(labour of love)
ここでの愛は、サッカーへの情熱と捉える事ができます。つまりサッカーを好きだという気持ちだけで移籍をする選手を指します。
サッカーへの情熱だけが、その地でプレーするモチベーションであり理由であるといった具合でしょうか。
海外でプレーしている中で下部リーグでプレーするドイツ人選手とも仲良くさせてもらっていました。
彼らの中には大学に行きながらプレーをしていたり、仕事を掛け持ちしながらプレーしている選手もいました。ドイツはブンデスリーガ1部から下は13部までリーグがカテゴライズされているので、その中の多くの選手はここに当てはまるかもしれません。
結局なにが言いたいの?
このサッカー選手の6つの分類のお話を、凄腕バラエティプロデューサーの角田陽一郎さんに話したところ、
テレビ業界も同じだという話で盛り上がりました。大物司会者が何人もいても、バラエティはうまく回らないし、若手だけでもだめ。
それぞれに役割があって、みんなでおもしろいものにする。と。
結局はバランスなんですね!という話になりました。
サッカーもベテランだけでもシーズン中盤で息切れするし、若手だけだと、結果が出ないと立て直しがきかなくなるかもしれない。
外国人選手の力も必要になってくる。
チームの戦術を考える監督がいて、クラブの方針を考えるフロントがいる。
柱となる定住者が必要だし、傭兵も野心家も必要。
結局はバランスなんじゃないか。
そして、それぞれが一つの目標にむけて一緒に戦う。
クラブを支えるサポーターの力も必ず必要になってくる。
しかし、イニエスタ選手がいた時のバルセロナのように世界最強のチームでも、ずっと勝ち続けることはない。クラブには周期があって波がある。
だからこそサッカーはおもしろい。
そのクラブを想い、立場は違えど共に戦う価値がある。