「メガバンク銀行員ぐだぐだ日記」では語られていないメガバンクの一面をつづってみた
メガバンクの支店に勤務をされてきた方が、メガバンクの内情をこれでもかとリアルにつづった「メガバンク銀行員ぐだぐだ日記」。
三行統合時・東日本大震災時・2021年2月に発生したシステム障害が詳細に語られていることから、著者はみずほ銀行員でほぼ確定である。そんな著者が、宮崎支店の支店長から人事評価のバツをつけられた話、その後あきらめずに大型店に返り咲き、課長に昇進した話、夢のマイホームを購入しようとしたお客さんに住宅ローンを出してお客さんから大変喜ばれた話、など、銀行員とはどのような仕事を送るのか、がよくわかる一冊になっている。
「銀行の常識は世間の非常識」とよく言われる。この本で描かれる様子は元メガバンク行員であった私にとってはさほど驚きはなく、「よくありそうな話ばかりだ」と平常心で読了できたが、Amazonレビューやブクログのレビューにて本作の感想を読むと、
「銀行ってほんと特殊な世界だな」
「こんなありえないことばかり起こるのか・・・」
といった感想が多く、改めて銀行員の業務未経験者の方々にとっては異様な世界だったんだな、と思わされざるを得なかった。同時に、そんな非常識な銀行の世界を少しでも描くことは、もしかしたら世の方々のためになることはなくとも、暇つぶしの一環としては役に立つのかもしれない、とも思わされた。
以下、そんな世間からは非常識と思われるメガバンクで私自身が経験した体験談を少しばかりつづってみたい。
1.入社時に札勘(さつかん)のテストがある
札勘(さつかん)とは、紙幣を正確に素早く数えるためのテストであり、「横読み」と「縦読み」の2種類の数え方がある。
入社して2、3ヶ月たったあとの集合研修にて、新入行員は数百枚の偽札を渡され、1分以内に正確にその枚数を数えるテストを受講する。
当時は「こんなテスト、何の役に立つんだろう」とぼやいていたが、実際に札勘が役に立ったケースは2回あった。
1回目は飲み会の幹事となった時、2回目は取引先の社長から3千万円分の現金を預かった時である。
1回目の事例はおおよそ想像がつくと思うので詳細は割愛し、2回目の話をしたい。
私が中小企業営業担当者を行なっていたとき、とある建設会社の社長に資産運用の提案を行った。当時の私の営業成績目標をクリアするためには3千万円以上の資産運用が必要だったため、私はその社長に対して「3千万円以上の運用をお願いします」と語っていた。
そんな矢先、その社長から「3千万円を現金で準備したから今から取りに来い」と言われ、私は夕方4時頃に社用車を走らせ、社長のオフィスに向かった。
そこには確かに大量の札束があった。どこでどうこの現金を用意したのかは不明であるし、なぜ他の口座からの銀行振込ではなく、現金での預け入れという手段を選んだのかは不明である。
が、とにかくここにある現金が確かに3千万円ある、という事実を確認した後、支店に持ち帰りきちんとこの社長の口座に入れなければならない。1枚でも紙幣に過不足が生じてしまえばそれは事故となり、私自身にも何らかの処分が下されることになる。
慎重かつ丁寧に素早く札勘を2、3回、合計30分かけて行い、無事に3千万円ぴったり紙幣があることが確認できたため、その紙幣をバッグにつめて支店に帰った。札勘を習得しておいてよかったと思ったのはこの時と、前述した通り飲み会の幹事をしたときくらいである。
今となってはこの札勘スキルも、キャッシュレスの波に呑まれて更に価値がなくなっているに違いない。
2.「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」を地でいく上司は実在する
ドラマ「半沢直樹」の大和田常務の名言の一つでもある「「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」。
こうした人種はドラマの中の話ではなく、銀行で実際に存在する。私の場合、入行してすぐに配属された支店の課長のAさんがそうだった。
その課長は私が休暇で不在中、私の取引先の社長Bさんと喧嘩をしてしまったらしく、私が休暇から戻ってきた際、億劫もなく「こうなったのもお前の責任だ。お前が責任もって対処しろ」と言われた。
当時の私は少し生意気だったので、「わかりました」と課長に言い放つと、その課長の目の前でBさんに電話をした。そして、Bさんと談笑して平和に事を収め、課長には「Bさんの件、問題なく解決しました」と言い放った。それがより課長の逆鱗に触れて、私に対する嫌がらせがその後エスカレートしていった。
今思えば、もう少しうまくやればよかった。たとえば、誰も聞いていない場所でBさんに電話をして問題を解決させ、課長に対しては「課長のおかげでうまくことが収まりました、ありがとうござました」といったことを述べれば支店内での課長との関係ももう少しうまくいったのだろう、と反省している。
その次に仕えた課長のCさんについては、本当にいろいろなエピソードがあるのだが、2つだけ述べておきたい。
1つ目は、私のとある取引先の社長との間で、資産運用が成約できたときのことである。そのことをすぐさまCさんに報告したところ、仰々しく立ち上がり、私を従えて支店長のところに向かい、「支店長、この度取引先●●社の社長の資産運用●億円が成約しましたのでご報告します」と誇らしげに報告をしていた。
普段、このCさんは嫌なことや報告したくないことがあると支店長に報告できずウジウジしていることで有名だったのだが、このときばかりはあたかも自分が成約させてきました、といわんばかりに素早い報告をしていた姿が印象的であった。
2つ目は、お客さんにお詫びしなければならない事象が発生したときのことである。なぜそのような事態に陥ったのか、正確には覚えていないのだが、それは少なくとも営業担当者である自分のみならず、銀行として落ち度があった対応を起因として起きた事象であった。
お詫びについては課長のCさんと私とでそのお客さんのところに、面談が始まるや否や、Cさんは急に私の方を指差しながら「この度はこいつのせいでこのような事態となってしまい、申し訳ありません。」とお詫びを始めた。
これには私も愕然とした。
ただ、この後私も複数の部署に所属していく中で学んでいったのだが、こうした「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」態度を取る上司はほぼ例外なく出世していなかった。
理由は簡単である。課長・副支店長・支店長・役員となるにつれて、所管する業務と責任は大きくなる。そんな中で自分の数名の部下の責任さえも取れない、もしくは取ろうとする態度を見せない人間には、大きな業務を任せることはできないからだ。
3.独身寮は月額家賃5,000円で風呂付きと破格だった
今となってはメガバンクの福利厚生も改悪されてしまったと聞くが、私が入行した当時は独身寮が割り当てられ、しかもその賃料も5,000円から15,000円程度と破格であった。
独身寮には、会社が保有する集合寮と借り上げ住宅の2パターンがあったが、私が入行当時に住んでいたのは前者の会社が保有する集合寮であった。食堂もついており、また銭湯のような風呂もついていた。バス・トイレ・食堂は共用だったがそれ以外の寝室は別室だった。
こうした環境に馴染めない同年代の社員も多数存在していたが、私は独身寮での他の社員との付き合いを完全にシャットアウトして部屋にこもって資格の勉強または読書をおこなっていたので、それほど気にならず、むしろ「5,000円でこんなよい環境に住めてラッキー」と思いながら住んでいた。
ちなみに、その後住んだ借り上げマンションは、賃料が月額15,000円と少し上がった。それでも都内の1LDKで会社までDoor to Doorで30分以内の場所に住めていたので、大満足だった。
近隣住民は皆、同じ会社に住む者同士なのだが、近所付き合いというものが全くといっていいほどなく、全く気兼ねすることなく住むことができた。
ちなみに、その借り上げマンションは男性社員専用のマンションだったのだが、土日になると女性の出入りが激しくなっていた。皆が全く気兼ねしなくなった結果、同棲をし始める社員が多かったようだ。そのため、よく人事部がその独身用借り上げマンションに住む社員を集め、「皆で誰が住んでいるのか、よく知りましょう(=皆で女を連れ込んでいないか監視し合いましょう)」という趣旨の懇親会を開いたりしていた。
4.社宅も非常に住環境がよかった
独身寮について述べたので、社宅についても述べたい。社宅は都内の複数箇所に存在していたが、目白、荻窪、三鷹、二子玉川といった場所にあった。海外駐在帰りの社員・転勤で都内に引っ越してきた社員の仮の住まいを提供する目的で用意された社宅であったが、こちらも住みごごちは最高であった。また、月額賃料も30,000円から50,000円であった。
私の場合、はるか遠くに東京タワーと新宿新都心の高層ビル群が見える立地の社宅に住んでおり、夜景も最高だっただし、何よりも閑静な住宅街で住環境が最高だった。
私の妻の両親が昔、この社宅に泊まりにきたことがあったのだが、「メガバンクの社宅とはここまで素晴らしい物件だとは思いませんでした。ただただ感激しました」という手紙をあとで書いてよこしたほど、驚いていた。
ただ、今は独身寮も社宅も、メガバンクはいずれも廃止の方向に向かっているようである。
今は賃上げによりメガバンク行員の基本給は昔に比べてだいぶ上がっているようだが、一方で社宅及び住宅補助等の福利厚生制度が徐々に消え去っているように思える。私のように、生計のほぼ大半を占める住居費を会社がもってくれただけで大変助かったと考える者としては、賃上げで基本給を上げるよりも、社員の住宅費をきちんと補助するほうが実質的には生活の負担が大幅に減るので、社員の幸福度が上がるように思う。
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