ボクの映画批評 第1回「怪物」(ネタバレなし)
人は皆、怪物。冒頭でそういう映画かと鷹を括っていたが、それだけに止まらなかった。この映画自体が「怪物」だった。
異なる視点から描き、人物像をくっきりと浮かび上がらせるというのは流行りの構成だが、そこに詩情豊かな描写が加わり、秀逸な作品となった。
家庭や学校での描写は見ていてつらいものがあった。残酷である。子どもは自分の興味本位で動く動物だ。嘘もつく。それが親を心配させないためであったとしても、罪である。そんな子どもに大人たちが振り回される。
難癖をつけるなら、校長室の場面。オーバーな演技と演出。その場でアイデアが出たと憶測するが、永山瑛太に飴を舐めさせるのは極めて不自然で、撮り直しレベルだ。他の役者もその場面だけ滑稽さが際立ち、演出家は抑えるべきだった。
脇役には、無名の実力ある俳優をオーディションで選んだらどうだろう。高畑充希も中村獅童も東京03角田も、彼らでなければならない必要はない。是枝組に出たがる役者は多いだろうが、有名俳優を出すと「芝居場」を用意しなければならない。この映画は子どもの話。大人は本当は脇なので、あまり印象的すぎる配役は避けるべきだ。
後半こそ是枝色が強かったものの(構成より情緒に走った)、緻密な構成といい、監督が脚本を書いていたらここまで秀作にはなっていなかったであろう。視座を広げる意味でも、是枝作品に脚本家が入るのは大いに賛成だ。
立ち位置としては、是枝裕和が撮った坂元裕二作品。世界の是枝の新境地として、決して悪くはない。
2023年6月3日鑑賞