400字小説(短編小説) | 春の音
「音緒のせいで入学式早々遅刻じゃない!」
「え? あかりん、入学式は遅刻がつきものじゃん!」
高校の入り口。桜並木が並ぶ傾斜のある長い坂道を走っている、朱莉と音緒。
「マンガの見すぎよ……ああー、もうだめ」
長い坂を相手に朱莉は息を乱して、その場でへたり込む。すると、強い風が。
「あかりん、見て!」
「えぇ?」
先を行く音緒を見やる。
すると、これが運命であったかのように風に踊る桜たちが、音緒を歓迎していた。
「きれい……」
「うん。春が、わたしを包んでる。響けって言ってる。あかりん、急ぐわよ!」
「ちょっ、ねぇ、まってよ、音緒ーっ!」
ハルの音が、音緒の鼓動を強くする。
――音が、学校が、みんなが、わたしを待っている。